シニアのノウハウを引き出す「なぜ」「どうして」
定年延長や再雇用制度の導入によって働き続ける60歳以上のシニア層には、技術やノウハウを若手に承継する役割が期待される。円滑な承継のため、シニアと若手との共同作業の場を設ける企業は多い。
(中略)
熟練のシニアから若手への円滑な技術・ノウハウの継承で成果を上げている企業もある。例えば、鉄道・道路の信号システムなどを手掛ける日本信号では、自動設計ツールを構築する過程で若手が知りたいノウハウをシニアから引き出した。NECの匠コンサルティンググループでは、サプライチェーンマネジメント(SCM)に関するコンサルティング業務を共同で進める中で、顧客との交渉に関するノウハウなどを若手がシニアから引き継いでいる。
(日経クロステック/日経ものづくり 1月17日)
ノウハウの継承は意外に難しい。シニアと若手とでは、世代の乖離もあり、コミュニケーションが取りにくいこともある。ただ、一般的に言って、言葉によるコミュニケーションには自ずと限界があるのも事実だ。
一世代前のAIは、人間の知識を人間にもコンピューターにも分かりやすい知識表現で記述し、質問に対して蓄積した知識表現を基に推論することによって答えを導いていた。知識表現で記述するためには、人間がその知識を言葉で表現する必要がある。しかし、全てのノウハウをマニュアルのように言葉で整然と説明することは困難だ。どの専門領域にも、言葉で表現できる形式知とは別に、暗黙知と呼ばれる言葉では表現しにくい知識が存在する。当時、筆者は富士通のAI開発推進室に所属していて、研究委託をしていた英国の大学の教授と話をしたことがあるが、その英国人教授は、knowhowとsayhowは違うと言っていた。知っている(know)ことと言葉で言う(say)ことは異なるという意味だ。
したがって、シニアから若手へのノウハウの伝承には、マニュアル化した知識の継承だけでなく、両者が協働して業務を遂行することによって、経験を共有することが重要になる。日本信号やNECが行っているのは、まさに、そうした経験共有の機会拡大だ。
しかし、シニアと若手とを組ませるだけで自然とノウハウが引き継がれるとは限らない。どのような技術やノウハウを残すべきなのか、若手はもちろん、シニアも把握できていないケースが珍しくない。そもそもシニアが自らの持つ技術・ノウハウの価値に気付いていない場合も少なくない。技術や経験に大きな開きがあり、価値観も異なる若手とシニアが、共同作業の中でぎくしゃくしてしまうことさえある。
一方で、熟練のシニアから若手への円滑な技術・ノウハウの継承で成果を上げている企業もある。例えば、鉄道・道路の信号システムなどを手掛ける日本信号では、自動設計ツールを構築する過程で若手が知りたいノウハウをシニアから引き出した。NECの匠コンサルティンググループでは、サプライチェーンマネジメント(SCM)に関するコンサルティング業務を共同で進める中で、顧客との交渉に関するノウハウなどを若手がシニアから引き継いでいる。