国民年金「5万円台」維持へ、厚生年金で穴埋め
厚生労働省は全ての国民が加入する基礎年金(国民年金)の給付抑制を予定より早く止める検討に入る。「マクロ経済スライド」と呼ぶ抑制策を前倒しで終え、支給を今の物価水準で月5万円以上に保つ。会社員が払う厚生年金の保険料や国庫負担で埋め合わせる。もともと少ない国民年金の減額を抑えて制度の信頼を守る狙いだが、小手先の見直しに批判も出そうだ。
(日本経済新聞 9月28日)
物価上昇が加速し、政府、物価上昇を超える賃上げを企業に要請しているが、年金は減額が続いている。政治的には、国民年金の減額を抑えて、高齢者の不満に対応したい局面だ。ただ、財源は厳しい。結果、年金会計の中でやり繰りしようとすることになる。国民年金の財布に資金が不足すれば、同じ年金の枠組みの中で隣にある厚生年金の財布を使うという発想だ。年金の枠外の予算を使うことよりも実現のハードルは低い。
問題は、実現が容易な手段は、本来のあるべき姿と矛盾することもあるということだ。本来は、国民年金の掛け金と国庫負担を増額して国民年金の支給額を維持すべきだが、国庫負担の増額には、増税か年金以外の予算の削減が必要となる。増税や他分野予算の削減への抵抗は大きいが、税金の使い道は何がより大事かという社会的な優先順位の問題でもある。「小手先の見直しに批判」に応えるには、優先順位についての社会的なコンセンサスを取る手間を省いてはならない。