仕組み債、退職金運用は販売対象外

日本証券業協会は商品内容が複雑で高いリスクを伴う「仕組み債」について、個人向け販売ルールを強化する検討に入った。年内にもガイドラインを改定し「退職金運用」「証券口座を開設したばかりの人」を販売対象外とする方向だ。販売トラブルが絶えず、金融庁から度重なる注意喚起を受けており、異例と言える販売制限に踏み切る。
仕組み債は国債より利回りが高く、複数の参照銘柄(株価、株価指数、金利、為替、コモディティー価格など)を組み込んだ一種のデリバティブ(金融派生商品)。オプション取引やスワップ取引を組み込んでおり、価格変動時に大きな損失が発生しやすい。もともとプロの機関投資家向けに開発された商品で、最近では高齢者など個人に販路を広げている。
(日本経済新聞 9月5日)

仕組み債で販売トラブルが絶えないのは、顧客がリスクの説明を受けても分かりにくい点だ。金融機関は対面でしか販売していないが、対面の説明でもリスクを伝えきるのは難しい。そもそも、金融機関の営業担当者は販売ノルマを課せられているため、リスクの説明よりもメリットの説明に熱が入る。しかし、リスクが小さいのにリターンが大きな金融商品は存在しない。営業トークに惑わされずリスクを詳しく評価するなら、退職金運用には向かない商品だと気づく。

仕組み債は、一定価格以上に値上がりすると早期償還され、資金が増えて戻ってくる。購入者は、利益を得たことで安心し、償還された資金を使って価格が高くなっている同じ商品を再び買うことが多い。こうして、購入価格が上昇していくにも関わらず、買い換えを繰り返していると、いつかは相場が下落し、高値で買った商品で大きな損失を被る。また、仕組み債は、価格が下落し始めても、購入時に定められた償還日がくるまで売却できないことが多い。つまり、早めに損切りをして損失を限定することができないことも、仕組み債による損失を大きくしている。実際、新型コロナウイルスの感染拡大や米国金利の上昇などで、金融商品が大きく下落する度に、30%以上の資産を失う投資家が続出した。

金融機関は仕組み債のような手数料が高い商品の販売に熱心だが、高齢の投資家はリスクに敏感であるべきだ。一方、金融機関は、販売対象を絞ることもさることながら、デリバティブを使ったローリスク・ローリターンの仕組み債の商品化も検討すべきだ。