住宅が社会保障になる日、低年金でも生活可能に
日本の社会保障制度には大きく6つのメニューがある。年金、医療、介護、障害者福祉、生活保護、そして子育て支援。だが欧州の主要国では7つあるのが普通だ。欧州にあって日本にないもの。それは「住宅」である。正確に言えば、日本にも住まいを確保するための公的支援はある。生活保護の一部である住宅扶助と、離職などで住まいに困った人向けの住居確保給付金の2つだ。だが、生活保護は厳しい資力調査を経なければ受給できない。住居確保給付金は求職活動中の人だけを対象とし、支援は最長9カ月で終わる。対象者は一部の困窮者に限定され、広く一般の人が使える制度にはなっていない。
(日本経済新聞 9月6日)
バブル期以降の日本の住宅政策は、住宅ローン減税などの持ち家促進策に偏っていた。家賃の補助などは、民間企業の住宅手当等の制度があるだけで、国の社会福祉制度としては存在しない。しかし、住宅ローンを組めるのも、住宅手当を受け取ることができるのも正社員だけだ。非正規雇用の割合が大きくなると、住宅の確保のための支援を受けられない層が増えてくる。特に、正社員になることなく非正規雇用を続けてきた就職氷河期世代が高齢化すると、持ち家がないまま収入が途絶えて住宅の維持は難しい。
一方で、大都市郊外や地方の過疎地域では、空き家の増加が社会問題となっている。こうした空き家を住宅の確保が難しい人向けに活用するのは解のひとつだが、そこでは、住宅はあっても、買い物に不便であったり病院や仕事がなかったりと生活の基盤を確保することが難しい。住宅問題は、住宅だけでなく、地域の生活環境全体の問題だ。その解決には、公的な住宅手当を支給するかどうかだけでなく、雇用や地域コミュニティーのあり方など、広い観点に立った検討が必要になる。