将来の年金、アプリで把握

金融機関やフィンテック企業が個人が将来受け取る年金額をもとに、アプリなどを通じて顧客に最適な資産形成を指南する体制が整う。厚生労働省が公的年金の試算に必要なデータを民間に開放し、個人が老後資金を把握しやすくする。岸田文雄政権が掲げる「資産所得倍増プラン」を後押しし、貯蓄から投資への流れを加速させる。
(日本経済新聞 7月14日)

現在でも、年1回郵送されてくる「ねんきん定期便」を見れば公的年金の支給額は分かる。さらに、「ねんきんネット」を使えば、いつでも年金見込み額の試算が可能だ。ただ、年金収入と資産運用の収入を合計した全体は、各個人が計算しなければならない。

厚生労働省が公的年金のデータベースにアクセスするためのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を民間企業に公開すれば、民間企業は、このAPIを使って顧客の公的年金の情報を入手し、自社で預かっている資産とともに将来の収入予測を顧客に一元的に提示することができる。顧客にとっては、自分で計算する手間が省けるというメリットがあり、企業にとっては、年金収入を加味した資産運用戦略を提案しやすくなるという利点がある。金融機関は、この機能を使って年金収入の高い層を抽出し、この層に対してより多くのリスク資産を購入するように勧めるだろう。その結果、厚生労働省の目標である貯蓄から投資への流れが加速し、岸田政権の「資産所得倍増プラン」を後押しする。

三者三様のメリットがあって良い施策のように見えるが、そもそも、金利が高ければ、高齢者がリスクフリーの貯蓄からリスクを伴う投資へ資金を振り向ける必要はない。金融機関が投資を推奨する金融商品は、金融機関が受け取る手数料が高い商品が中心で、投資家が背負うリスクを高める傾向がある。国の施策としては、金融機関の営業支援ではなく、日本経済と国家財政を高金利に耐える状態に改善させ、金融緩和政策から脱却して貯蓄の利回りを向上させることに軸足を置くべきだ。