寿命に合わせ年金支給 イギリスで進む受給年齢引き上げ

英国が公的年金の受給開始年齢の引き上げを進めている。今の66歳を2026~28年にかけて67歳に上げる予定で、来年には制度の改定を控える。背景には年金財政の安定だけでなく、長寿命化に伴う受給の世代間格差をなくすという考え方がある。
(中略)
第1の目的は年金財政の安定にある。
(中略)
もう1つ重視するのは、「成人期間の3分の1を年金受給の期間とする」との考え方だ。年金は誰もが働いている間、所得の一定割合を年金保険料として負担している。長寿化が進むのに受給が始まる時期が同じなら、将来世代は平均すると長く年金をもらう。受給の開始を遅らせれば、不公平感をなくせる。
(日本経済新聞 6月23日)

日本が公的年金の受給開始年齢を段階的に65歳まで引き上げてきたのは、平均寿命が延びたことが大きな要因だ。その意味では、イギリスと同様、日本も寿命に合わせて年金支給をしていると言える。ただ、日本では、イギリスのように「成人期間の3分の1を年金受給の期間とする」というような定量的なルールが確立しているわけではない。成人期間と年金受給期間の比率が決まっていれば、寿命の変動によって公的年金の受給開始年齢も変わる。受給開始年齢を変更する法改正のときに異論が出にくい。あるいは、デンマークのように、年金受給期間を固定するというのも同様の効果がある。この場合、寿命が1年延びれば、自動的に公的年金の受給開始年齢も1年延びる。

新型コロナウイルス感染症のようなパンデミックが発生したり、ウクライナ戦争のような大規模な紛争が起きたりすると、死者が増え、平均寿命が短くなることもある。しかし、そのような事象は一時的だ。多くの場合、平均寿命は年々長くなる。平均寿命が延びるたびに、公的年金の受給開始年齢の変更を議論するのは不合理だ。日本も寿命と年金受取期間の関係について、社会的なコンセンサスを作ってルール化するよう取り組んだ方がよい。