ビットコインは老後資産か

暗号資産(仮想通貨)の代表格、ビットコインの価格が低迷している。5月前半には3万ドル(約390万円)の大台を割り込み、3月の高値から4割以上下げる場面があった。米連邦準備理事会(FRB)が保有資産を減らす量的引き締めを過去の2倍の速さで進めようとするなか、コロナ禍が生んだ過剰流動性に押し上げられてきた仮想通貨から資金が流出している。それでも米国では仮想通貨の将来性に期待し、購入を検討する人が多い。象徴的なのは米資産運用大手フィデリティ・インベストメンツによる4月下旬の発表だ。同社の提供する確定拠出年金(401k)プランで、業界で初めてビットコインへの投資を可能にするという。
(日本経済新聞 5月15日)

暗号資産の流通量は増加し、市場も拡大して、流動性は高くなってきた。流動性が高い、つまり、市場でいつでも売買できるものであれば、資産としての意味を持つ。問題は、価格変動によるリスクとリターンの関係だ。

米国の大手金融機関であるフィデリティ・インベストメンツが確定拠出年金でビットコインへの投資を可能にするのは、運用会社として顧客に提供する選択肢の幅を広げ、より多くの顧客を獲得したいからだが、米国の政府や議会からは反対の声が上がっている。米国の労働省は、リスクを投資家が十分理解していない可能性などを指摘して、老後の保障を危険にさらすことへの懸念を表明した。確かに暗号資産のボラティリティ(価格変動の度合い)は他の金融資産に比べて高い。金や原油、小麦などのコモディティもウクライナ戦争のような突発的な事象が起きるとボラティリティは高くなるが、実体のある物だけに現物の需給関係によって一定程度価格がコントロールされる。一方、暗号資産は、実体を持たず、売買の需給関係によってのみ価格が変動し、投機的な性格が強い。

ただ、暗号資産で資産運用している個人は、既に一定数存在する。これらの人々は、確定拠出年金として暗号資産を運用することによって税制上の優遇を受けられるなら、それを選択するだろう。したがって、ビットコインへ投資できるフィデリティの商品には、それなりの数の顧客がつく。

社会として考えなければならないのは、「投機的な投資」に対する課税を優遇することが社会的に正しいのかという点と暗号資産がその「投機的な投資」に該当するのかという点だ。これらの点については、社会的なコンセンサスを得る必要がある。ただ、それまでは、確定拠出年金の投資先に暗号資産を選択する人が増えていくのかもしれない。