「早期退職の募集」相次ぐ大手企業と「定年引き上げ」目指す政府
新卒で入社し、年功序列で上がっていく賃金制度のもと終身雇用で働く−−。日本では長い間、学校を卒業したら企業に就職、年齢とともに昇進を目指し、定年まで同じ会社で勤め上げるというキャリアモデルが一般的だった。しかし今、こうした「日本型雇用」と呼ばれる昔ながらの雇用システムが、変化のときを迎えている。
自民党をはじめとした多くの政党が「70歳への定年引き上げ」を目指す姿勢をとる一方、企業側は早期退職者の募集を相次いで行っている。雇用問題の専門家はこうした動きを受け「定年制度は廃止するべきだ」と口にする。
(BLOGOS 3月29日)
大企業の早期退職募集と政府が目指す定年引き上げ、互いに逆方向への動きのように見えるが、相互に関連している。定年引き上げの動きは、企業が早期退職を募集する動機のひとつだ。希望する人に働く機会を与えなければならないとすれば、退職を希望する人を増やせば人件費を抑制できる。退職金の上積みをしても、長期的にはその方が企業にとっては得だ。黒字の状態で割り増しの退職金を費用として処理すれば、その分利益は減って法人税は安くなる。法人税を払うより、高齢の従業員への退職金を払って今後の人件費を削減するのは、企業としては合理的な判断だ。
ただ、この判断は雇用環境の変化に伴って変わっていく。たとえば、年功序列、終身雇用の日本型雇用から職務内容に基づくジョブ型雇用に転換が進めば、人員削減の対象は必要としなくなったジョブの担当者となる一方、年功序列ではなくなるので、高齢の従業員に対する希望退職の募集は必要ない。定年もなくなり、定年延長は議論の対象にならなくなる。早期退職の募集と定年引き上げの綱引きは、そうなるまでの過渡期の現象なのかもしれない。