経済的理由で国外に移住するスイスのシニアたち
毎年、スイスの年金生活者が経済的困窮から逃れるために国外に移住している。年金だけではスイスで人並みの生活ができないからだ。
(中略)
毎年数千人のスイス人が国外に移住している。動機は分からないため全ての人が経済的理由で移住を選択したかどうかは定かでないが、その数が増加傾向にあることは確かだ。2019年の65歳以上の国外移住者は3135人で、全体の10%を占めた。
(SWI swissinfo.ch 10月4日)
経済的な理由で、中東からEUを目指す移民や難民が後を絶たない中、スイスからもフランスなど周辺国へ移住する人が増えている。中東では国家の崩壊と経済の破綻が原因で人口が流出しているが、スイスからの移住は、逆に、国家の安定と通貨の強さが原因だ。スイスフランはユーロやドルに比べて強く、安定している。このため、輸入品の価格は安いものの、スイスの人件費は高く、労働集約的なサービスの物価は高い。スイスの高い給与を得ている人にとっては収支のバランスは取れているが、収入のない年金生活者にとっては、支出のみが高く、生活は厳しい。フランス語やドイツ語を母国語として話すスイスの高齢者が、隣国へ移住しようと考えるのは合理的だ。特に、フランスの地方都市は、物価が安くて住みやすい。さらに、東欧まで行けば、物価はもっと安くなる。
同様に、日本でも定年退職を機に、移住する人が増えてきた。外国語や文化の壁があって海外移住に踏み切る人の数はそれほど多くはないが、国内での移住は珍しくない。実際、新型コロナウイルスの影響もあり、東京の人口は流出に転じている。東京郊外の一戸建てを売れば、地方都市の繁華街近くの大きなマンションを買うことができる。世界でも日本でも、シニアの移住は、今や普通の選択肢のひとつだ。