コロナ禍で失業率の上昇が限定的にとどまる理由
2020年4月の緊急事態宣言下で失業率の上昇が小幅にとどまった一因は、仕事を失った人の多くが職探しを行わずに非労働力化したことである。労働力人口は女性、高齢者を中心に長期にわたって増加傾向が続いていたが、緊急事態宣言や学校の臨時休校の影響から高齢者や女性、学生アルバイトの一部が非労働力化したことで、2020年4月には前月差▲99万人の大幅減少となった。このため、就業者数が同▲107万人の大幅減少となったにもかかわらず、失業者数は同6万人の増加(失業率は0.1ポイントの上昇)にとどまったのである。仮に、非労働力化した人の全てが求職活動を行っていたとしたら、4月の失業率は4%程度まで上昇していた(実際の失業率は2.6%)。(日本の人事部3月25日)
米国では、新型コロナウイルスの新規感染者はまだ多いものの、ワクチン接種が進んできたことにより、雇用は回復傾向にある。しかし、日本では、ワクチン接種が本格的に始まる前に変異型ウイルスが蔓延し、観光、飲食などのサービス業を中心に、雇用は厳しい状況が続いている。
ただ、失業率の国際比較では、日本の失業率はそれほど落ち込んでいない。その理由のひとつは、この記事が指摘しているように、失業した人の全てが職を求めているわけではないからだ。求職活動をしない人は失業者とは見なされないため、失業率は上がらない。特に、高齢者は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクが高いために、働くことを敬遠する人が多かった。したがって、高齢者の失業率はそれほど上昇していない。
もっとも、失業率の低下が限定的だからといって、楽観して良いということにはならない。職のない状態が長引けば、生活に困窮する高齢者も増え、再び働きたいと思う高齢者も増えてくる。しかし、若いパートやアルバイトであれば、配送業や医療・福祉など雇用が拡大している業界へ転職も容易だが、高齢者とって業界を変えることはハードルが高いこともある。国の政策としては、労働市場に戻ってくる高齢者に対して他業界への転職を促進するような施策を充実させることが重要だ。