95歳現役、若者に創造力を、江崎玲於奈さん
ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈さん(95)は、人生の前半は研究者、後半は教育者として第一線に立ち続け、生涯現役を貫いている。人生100年時代を体現する才人に、どのようにすればより豊かな人生を送ることができるのか、その秘訣を教わった。
(中略)
「1992年、米国での研究生活に終わりを告げ、筑波大学長に就くべく帰国しました。当時67歳で、研究者年齢をかなり超えていたので創造力が求められる研究者から分別力を働かせる教育者に転身しました。若い学徒に新しい知識を説き、創造力を喚起する。それが今の生きがいです。これまでの人生、シナリオ通り、いやそれ以上に盛り上がっているように思われます」
(日本経済新聞 8月27日)
江崎さんは、ソニーの前身である東京通信工業の研究員として、半導体のトンネル効果を実証し、その功績により、1973年にノーベル物理学賞を受賞した。まだ零細企業だった東京通信工業の限られた研究資源の中で、短期間のうちに画期的な結果を出した江崎さんの創造力には驚嘆する。また、研究者として物理学の歴史に名を残す成果を上げただけでなく、研究の第一線を退いた後も、教育者として卓越した業績を残してきた。
時として、老人の分別力は、若者の創造力を抑制することもあるが、江崎さんの教育者としての分別力は、逆に、若者の創造力を育成、開発することに貢献した。特に、2000年、小渕内閣の教育改革国民会議の座長として取りまとめた「教育を変える17の提言」は、20年を経た今なお、色あせることのない名言集だ。ただ、「一人ひとりの才能を伸ばし、創造性に富む人間を育成する」ことの一環として「特に優秀な子どもでその大学の教育目標に合う者は飛び入学ができるよう、現在原則18歳となっている大学入学年齢制限を撤廃する。」など、政府の会議としては大胆な提言を行ったが、教育界の利害が交錯する中で部分的な実現に留まったのは残念ではある。もし、これらの提言が2000年に実行されていれば、今日のように、AI技術者の質と量で、米中に大きく水をあけられることはなかったかもしれない。
しかし、実現できなかったとしても、江崎さんの教育に関する主張は、後世に影響を与えている。それは、江崎さんが、ノーベル賞受賞者という著名人だったからだけではなく、シニアになっても世の中を変える意欲を失わなかったからでもある。恐らく、教育者としての人生を余生とは思わず、新たな使命と感じておられるのだろう。世のシニアも大いに見習うべきだ。