元気なうちは「長く働く」 後押しする仕組みが続々
日本企業で「55歳定年」が一般的だった50年ぐらい前、男性の平均寿命は70歳前後だった。しかし人生100年時代には定義も変わる。日本老年学会などは「高齢者とは75歳以上とすべきだ」と提言。今年3月には改正高年齢者雇用安定法が成立し、70歳までの就労が現実味を帯びてきた。60代はまだ現役世代といっても過言ではない。ただ社会保障制度はその実態に追いついていない側面がある。60歳を過ぎて働くには公的制度を理解し、賢く使う必要がある。
(日本経済新聞 5月28日)
この記事では、賢く使うべき公的制度として、年金をもらい始める年齢を遅らせる繰り下げ受給の上限年齢の75歳への延伸、一定以上の収入がある働く高齢者の年金支給額を減らす在職老齢年金の見直し、そして、厚生年金に加入するハードルの引き下げを挙げている。
どれも、「希望する人が70歳まで働ける社会を目指す。」として政府が導入した施策だが、残念ながら、その効果は限定的だ。たとえば、現在でも年金の受給年齢は70歳まで繰り下げることができるが、実際に70歳まで繰り下げている人は少ない。
むしろ、繰り上げて早く受給する人の方が多いのが現状だ。75歳まで繰り下げることができるようになっても、それを理由に70歳以降も働き続けようとする人はそれほど多くはないと思われる。
また、在職老齢年金の見直しでは、65歳未満の基準額が65歳以上と同じ47万円に引き上げられたが、65歳以上の基準額は47万円のままだ。
つまり、「月収と年金月額の合計が47万円を超えたら超過額の半分が支給停止になり、47万円以下なら減額されない。」というルールが年齢に関係なく適用されるようになったにすぎない。
65歳未満の人にとっては基準額の引き上げになるため、勤労意欲を促進させる効果が期待できるが、そもそも、年金の受給年齢は段階的に65歳に移行する途上にあり、早晩、65歳未満で受給するのは繰り上げ受給をしている人だけになる。したがって、この改正の恩恵を受ける人は減少を続け、次第にゼロに近づく。
これらに対して、効果が期待できるとしたら、厚生年金の中小企業への適用拡大だ。企業負担は増えるが、厚生年金に加入できるなら働き続けようと思う人は一定数いる。高齢者の就労意欲を高めるには、国も企業も厚生年金に加入できるメリットをより強く訴求すべきだ。