定年後投資デビューの危うさ 退職金でリスク資産運用

日本人の「現預金好き」は有名だ。政府は長年、個人マネーを証券市場に取り込もうと「貯蓄から投資へ」を呼びかけてきたが、ほとんど浸透していない。だが、年代別にみると、本来、投資リスクを回避すべき高齢者ほど投資にのめり込んでいるというゆがみがある。
(中略)
総務省の「14年全国消費実態調査」で株式・投信など有価証券を保有する世帯の割合をみよう。世帯主が30~40代は10%台にとどまるが、60代は29%、70代は28%と高まる傾向がある。保有資産額は高齢者のほうが大きいため、投資実額では、40代は平均78万円だが、60代は同307万円、70代は同336万円もある。
(毎日新聞 4月9日)

一般的には、将来の収入の見込める若い層ほどリスクを取ってハイリターンの金融商品に投資し、高齢になるとローリスク・ローリターンの資産割合を増やした方が良いとされている。しかし、実際には、高齢者の方が運用にまわせる資産額が大きいため、リスク資産の割合も大きい。

多くの日本人は、まず、預貯金など元本が保証される安全な資産をある程度持とうとする。リスク資産に手を出すのは、十分な安全資産を持てたと確信した後だ。ところが、そもそも貯蓄率の低い今の若い世代は、十分な安全資産を持つところまでいっていない。

高齢者は過去の貯蓄や退職金で比較的多くの資産を持っている。したがって、十分な安全資産を超えた資産を持っていると考える人も多い。ただ、年齢が高くなり、収入が低くなると、将来のために用意しておくべき安全資産の金額は大きくなることにも留意が必要だ。新型コロナウイルスで世界の金融市場が大きく揺れ動き、金や原油などの商品も含めて、ほぼすべての資産の価値が下落しているように、リスクが顕在化する時は中長期的には必ず訪れる。やはり、若い世代は収入をもう少し消費から投資に回し、高齢世代はリスク資産への投資をもう少し慎重にすべきだろう。高齢になってもリスク資産への投資をするなら、できるだけ働いて収入を維持する努力も必要だ。