「引退」の終焉、米国も65歳以降働く時代に
65歳で引退できるように十分な資金を貯めておけ――。就職したばかりの世代にはこれまでの常識は役に立たなくなるだろう
(中略)
その背景には医療費の上昇や社会保障年金の財源不足が盛んに報じられていることがある。今、働いている人たちに、貯蓄を殖やすために少なくとも70歳まで雇用を維持するよう働きかけることは賢明だ、と経済学者でボストンカレッジ教授のアリシア・マンネル氏は指摘する。
しかし働き続ける理由は他にもある。マンネル氏は著作「Working Longer」(これまでより長く働く)」の中で仕事の物理的な労力が減り、仕事が「個人的、社会的にこれまでより大きな満足感を得られるもの」になったと指摘している。
(ウォール・ストリート・ジャーナル 1月13日)
程度の差こそあれ、高齢化が進んでいるのは米国も同じだ。そして、健康寿命が延び、ICTの進歩によって、高齢者の多様な働き方が可能になってきたことも先進国に共通している。そうなれば、「引退」が社会からなくなり、健康な限り、働き続けることが普通になるのも不思議ではない。特に、もともと定年がない米国では、年齢に関係なく働き続けることは、むしろ、自然とも言える。この記事では、「トランスアメリカ退職研究センター(TCRS)が2018年に6372人を調査したところ、65歳で引退する予定はない人は半数に上り、13%は生涯引退するつもりはないと回答した」ことが紹介されているが、この割合は、今後も増加を続けるだろう。
少子高齢化では米国よりも先進国の日本ではあるが、米国から学ぶべきこともある。そのひとつは、新たなテクノロジーを活用した就労形態の多様化だ。音声認識によるインターフェースの簡易化、ロボットによる重労働からの解放、自動運転による移動の自由度の拡大、テレワーク環境の充実、ICTに関する再教育の機会の拡大など、高齢者が引退を考えなくて済む社会環境が米国では整いつつある。こうした環境の変化が、収入のためだけでなく、満足感を得るためにも仕事をしようという高齢者の勤労意欲の向上をもたらした。日本もICTを活用した高齢者の労働環境の改革に本腰を入れるべきときだ。