年金、現状水準には68歳就労 財政検証 制度改革が急務
厚生労働省は27日、公的年金制度の財政検証結果を公表した。経済成長率が最も高いシナリオでも将来の給付水準(所得代替率)は今より16%下がり、成長率の横ばいが続くケースでは3割弱も低下する。60歳まで働いて65歳で年金を受給する今の高齢者と同水準の年金を現在20歳の人がもらうには68歳まで働く必要があるとの試算も示した。年金制度の改革が急務であることが改めて浮き彫りになった。
(日本経済新聞 8月28日)
5年に1回実施されている年金の財政検証だが、5年前の前回の財政検証に比べると所得代替率は若干改善している。女性と高齢者の就業率の向上と積立金運用の利回りが想定以上だったことが主な要因だ。積立金の運用実績が良かったのは、この5年間、世界経済が緩やかな成長を持続し、歴史的な金融緩和でマネーが世界に溢れている状況が続いてきたことによるものだ。しかし、今年に入って、世界経済は米中貿易摩擦の影響もあって減速傾向にある。米欧の中銀は、再び金融緩和に舵を切ろうとしているが、リセッションに陥るリスクは拭いきれない。株式などリスク資産への投資を増やしてきた日本の年金資金は、次の5年間で想定外の損失を被る可能性もある。
もし、今後、積立金の運用益がそれほど期待できないとすると、期待できるのは、女性や高齢者の就業率のさらなる向上ということになる。あるいは、非正規雇用の従業員の厚生年金加入率の増加も一定の効果が期待できる。国だけでなく、日本社会全体でこの課題に取り組む必要があるだろう。
ただ、最も本質的な課題は、出生率の向上だ。今、出生率が改善しても年金制度に対する効果は20年後にしか現れない。しかし、これは今そこにある喫緊の課題であって避けて通ってよい問題ではない。今回の財政検証では、現在20歳の人が現状水準の年金を受け取るには、68歳まで就労する必要があると試算されているが、今の低出生率が続けば、現在0歳の乳児が現状水準の年金を得るには70歳を過ぎても働かなくてはならなくなるだろう。高齢者の労働参加によって短期的な財政改善効果を期待しながら、長期的には出生率の向上を目指さなければならない。