高齢者や外国人などの人材多様化で生産性向上、経済財政白書案

内閣府は近く公表する2019年度の経済財政報告(経済財政白書)で、人材の多様性が高まった企業の生産性が年率1ポイント程度上昇するとの分析を示す。男性と女性が平等に活躍する企業ほど収益率が向上する傾向にあることもわかった。高齢者や外国人を含めた多様な人材の確保に向けて、年功序列など「日本的な雇用慣行の見直し」を求める。
(中略)
白書では、政府がめざす70歳までの就業機会の確保を巡る課題を分析した。高齢者雇用の拡大で若年層の雇用や賃金が圧迫されるとの懸念に対し、上場企業の実際の状況の分析から「高齢者雇用の増加が若年層の賃金や雇用を抑制する関係性は見られなかった」と結論づけた。
(日本経済新聞 7月13日)

高齢者や女性、外国人など多様な人材が活躍する企業は、個々の従業員の能力や個性に合わせて働き方を工夫している企業であり、一般に、従業員が生み出す付加価値がより大きくなる傾向がある。

ただ、人材の多様性と企業の生産性との間に正の相関性があるからといって、直ちに、「人材の多様性を高めれば、企業の生産性は向上する」と結論付けるのは早計だ。筆者は、ビッグデータ分析やAIの経営コンサルタントとして企業の支援やセミナーを行っているが、そこでよく目にする誤解の一つに、相関と因果関係との混同がある。

「人材の多様性が高い」企業は「生産性が高い」という分析結果が得られたとしても、「人材の多様性が高い」ことが「生産性が高い」ことの原因とは限らない。別の原因が存在する可能性があるからだ。たとえば、業績が良く成長率が高ければ、人材を積極的に採用するため結果として「人材の多様性は高い」状態となり、従業員はフル稼働するため結果として「生産性は高い」状況が続くだろう。この場合、「業績が良く成長率が高い」ことが根本原因であって、「人材の多様性が高い」と「生産性が高い」は、ともにその結果ということになる。

同様に、「高齢者雇用の増加が若年層の賃金や雇用を抑制する関係性は見られなかった」という分析結果の解釈にも注意が必要だ。業績が良く人材不足に陥っている企業は、年齢に関係なく人材を集めようとするため、高齢者の雇用を維持すると同時に、若年層も確保しようとして賃金を上げ雇用を拡大する。また、大企業は、通常、一定数の新卒採用を継続するため、高齢者雇用の増減とは関係なく、若年層の賃金や雇用を抑制しない。つまり、上場企業を企業単位に分析した結果を集計しても社会全体の傾向は見えてこないということだ。実態を把握するためには、調査対象を中小企業にも拡大し、かつ、企業の枠を越えた分析が必要だ。