年金開始、75歳も選択肢に 毎月の受取額は2倍
厚生労働省は公的年金の受給開始年齢を75歳まで繰り下げられるようにする検討に入った。毎月の年金額は65歳開始に比べて2倍程度とする方向だ。いまは70歳開始が上限だが、一段と高齢になってから年金をもらう選択肢をつくる。働く高齢者を増やす呼び水にし、元気な高齢者に社会保障を支える側に回ってもらうのが狙いだ。
(日本経済新聞 1月26日)
公的年金の受給開始年齢を70歳超へ繰り下げることは、規定の方針だったが、75歳まで繰下げ可能とし受け取り額は2倍程度、という数字が固まってきた。これは、年金財政への影響がほぼ中立な範囲で、受給開始年齢の選択肢を拡げるという案だ。現行制度への影響が少ないため、反対が出にくい反面、社会に与えるインパクトも少ない案でもある。
現行制度では、受給開始年齢に関わらず、平均寿命まで生きた場合の年金総額は変わらない。受け取る総額が変わらないのであれば、生きている間に使いたいので、受給開始年齢を繰り上げる人は多くなり、逆に、繰り下げる人は少なくなる。その結果、現在65歳超に繰り下げている人は約1%だ。厚生労働省が検討中の案では、70歳超への繰り下げの場合は年金の増額率を60~65歳までよりも高くするとしているが、その差は0.1%程度。この程度の増額率の上乗せでは、年金総額はそれほど増えない。したがって、年金財政の悪化の心配は少ないが、その分、70歳超へ繰り下げる人を増加させるインセンティブとしては弱くなる。
厚生労働省が狙っているとおりに「働く高齢者を増やす呼び水に」するには、受給開始年齢の選択肢を75歳に拡げるだけでは不十分だ。公的年金に対する所得税のあり方などの税制と合わせた改革を行い、70歳超へ繰り下げた人の手取り額が増えるような制度改正が必要となるだろう。