対策遅れる高齢者の労災
さまざまな業種で人手不足感が強まる中、シニアに働き手としての期待が高まっている。しかし、過労で倒れるなど、六十歳以上の労働災害は目立つ。厚生労働省によると、昨年の死亡災害事案九百七十八件のうちの三分の一を六十歳以上が占める。専門家からは「健康に配慮した雇用環境の整備が追いついていない」との指摘もされている。
厚労省の労働災害発生状況によると、昨年発生した死亡災害九百七十八件のうち、六十歳以上は三百二十八件(33・5%)。十代から十歳ごとに六つに分けた年代別で最も多く、五十~五十九歳の二百三十五件(24・0%)を百件近く上回った。業種別では、建設業が百九人と最多で、製造業三十八人、商業三十六人、運輸交通業三十人、その他の事業のうち警備業が二十四人だった。
(中日新聞 12月5日)
60歳以上の労働災害発生率が、他の年代に比べて高いだけでなく、労働災害発生件数に占める60歳以上の割合は増加している。建設業を中心に、体を使う仕事では、若い労働者に比べて高齢の作業員は労働災害に見舞われる確率が高い。
高齢者の労働災害を削減するには、高齢者の肉体的な負荷を軽減したり、休憩の頻度を上げたりするなど、雇用環境での配慮が必要だが、若い作業員と同じ処遇を求める高齢者は、特別扱いされて、その分給与が下がることを望まない。
そもそも、高齢者の労働災害の原因は、若い人たちを含むすべての世代に共通のものが多い。たとえば、厚生労働省の平成30年業種別事故の型別死亡災害発生状況によると、平成30年10月末時点の建設業での死亡災害では、全体の240件の内、墜落・転落が108件と最多だった。高齢になればバランス感覚や筋力が衰えて、墜落・転落の危険性は高くなるとは言え、若い人でも起きうる事故だ。企業としては、高齢者を特別扱いするというよりは、すべての年代の労働者にとっても安全な職場にするという意識を持って雇用環境の整備にあたるべきだ。