定年後の仕事にやりがいは?
66歳の新入社員が今春、ネスレ日本(神戸市)に入った。石川一成さん。自宅から通える首都圏の支店で、スーパー27店舗を担当する。週5日、納品先の店を訪ね、店長らから来店客の反応や商品の動きを聞く。週に1度、支店長に店頭の様子を報告する。
石川さんは「支店が気づかない店頭の変化を伝え、提案もする。経験を生かせる充実した毎日です」という。56歳まで大手乳製品メーカーで営業マンとして働き、支店長も務めた。自ら商売をやりたくて退職し、起業したが、東日本大震災の影響で行き詰まった。その後、営業の経験を生かす仕事を探したが、長く巡り合えなかった。
そんなとき、ネスレの「シニアスペシャリスト」を知った。60歳以上の事務、営業、エンジニアなどの経験者を臨時社員として採用するという。ボーナスはないが、社員並みの待遇で、勤務地や時間は融通が利く。契約は半年ごとの更新だが、年齢制限は設けられていない。
(朝日新聞デジタル 9月10日)
企業に65歳までの雇用が義務付けられたことにより、それまで働いてきた職場で働き続ける人も多くなった。しかし、雇用の機会は今までの職場には限らない。仕事のやりがいを重視するなら、他の企業にも目を向けてみるべきだ。人材不足が深刻化し、働き方も多様化している今日、60歳を過ぎても待遇とやりがいを共に享受できる雇用の機会も増えている。
特に、人手不足に悩まされている小売業、飲食業、物流業などのパート求人では、高齢者だからといって待遇が極端に悪くなることはなく、むしろ、歓迎されることすらある。日本ネスレのようにシニアのスペシャリストを正社員並みの待遇で臨時社員として雇用する企業は、まだ少ないかもしれないが、今後は、こうした雇用形態もしだいに拡大していくだろう。高齢者の側も、安定した収入だけでなく、やりがいを求めて、仕事の選択の範囲を拡げる時代になってきた。