80歳まで現役パン作り 希望者全員雇用

愛知県豊田市のパン製造業者が希望者全員を原則、80歳まで雇用する取り組みを導入している。人手不足解消で始めた苦肉の策だが、熟練の技が品質に生きている。従業員も培った技を生かせ、充実した日々を送っているという。
焼きたてのパンの香りが食欲をそそる。愛知県豊田市のキングパン協業組合の工場。ベルトコンベヤーを流れる乳白色の生地に厳しい視線を寄せる高齢者がいる。パン作り六十年のベテラン安藤幸夫さん(77)。形に問題はないか、重さは基準に合っているかを目視などでチェックする。
定年後も働き続け、今も現役の安藤さんは充実した表情で話す。「パン作りに携われるのは、とてもやりがいがある」。勤務時間は午前四時半から午後一時半まで。フルタイムで朝も早いが、午後は自由になるから満足という。安藤さんは八十歳を見据え、「働き続けたい」と話す。
同組合は、豊田市やその周辺市の小中学校などに給食用のパンや米飯を提供している。通常一日五万食を製造している。四年前、八十歳までパート雇用できるよう社内制度をつくった。きっかけは、新規募集しても人が集まらなかったためだ。(中略)加えて、パン製造は熟練の技が欠かせない。気温や湿度は日々変化するため、パン生地をこねる機械の運転時間や速度に微妙な調整が要る。焼き上がりを同じ品質に保つためだが、簡単な技ではないという。
(中略)
高齢者は早朝勤務を希望する傾向が強い。一方、パートの女性は朝の家事や育児を終えてからの勤務を望む。希望が集中しないため、結果として望んだ時間に働くことができる。注文が減り、働き手が少なくて済む学校の夏休み期間などは、長期休暇も取得しやすくなるという。
(東京新聞 3月20日)

パン屋さんの朝は早い。それだけにパートやアルバイトの確保は難しい。熟練の技が必要とされるところもコンビニ以上に人手不足が深刻な理由のひとつだ。そんな中、パン作りの技能を持った高齢者が、80歳まで活躍していることは、高齢者の仕事の場を提供するという雇用の面だけでなく、パン製造の品質と効率を維持、向上させるという事業の付加価値の面でも貢献している。とりわけ、早朝勤務の希望者が少ない主婦層のパートと勤務時間の点で相互に補完し合っていることが事業の効率化に役立っている。

同様に、高齢者と他の層との勤務時間に関する補完関係は、他の業界でも一般的に成り立つだろう。パン屋さんモデルは、今後、多くの業界に波及していくかもしれない。