「定年は自分で決める」80代まで現役も
「70代はまだまだ働ける。引退は80歳ぐらいになってから考えればいいと思う」。介護施設運営のケア21で介護スタッフとして働く鈴木洋氏(72)はこう話す。同社は2014年から定年制を廃止し、本人が希望すれば原則何歳になっても働ける人事制度を導入。現役最高齢は86歳の女性だ。
鈴木氏は都内の企業で約40年働き、70歳から同社で勤務。月7回程度の夜勤もこなしている。「仕事をしていることが元気の秘訣(ひけつ)だ」とし、仕事にやりがいを感じているという。元エンジニアとして「自分で設計して自分で発明したものを世に送り出したことがあるから、創作意欲はまだ旺盛なんですよ。例えば、車いすでも階段を一人で上り下りできないかとか」。
少子高齢化で若い労働者人口が減る中、日本企業は働き手不足を補う存在としてシニア人材の戦力化に動き始めた。高齢者にとっても、国の財源不足で年金支給開始年齢が60歳から65歳に段階的に引き上げられ、一般的な定年60歳以降も働きたいニーズは大きい。明治時代に導入された日本独特の定年制を見直す動きが広がっている。
労働政策研究・研修機構の調査によると、ゼロ成長が続き労働参加が適切に進まなければ、30年の日本の就業者数は14年比で約790万人減少する見込みだ。社員100人の中小企業が毎年5000社程度、消滅する計算になる。60歳以上の働く高齢者が増えれば、働き手の減少は182万人にとどまる可能性があるという。
三菱総合研究所の奥村隆一主任研究員は、「このままだと労働力人口が減っていくので、女性と高齢者どちらもがフルに参加する前提で考えていく必要がある」と指摘。中でも安倍晋三政権が掲げる成長目標については、「国内総生産(GDP)600兆円を死守しようとしたら高齢者の参画は必須だ」と述べた。「日本人は寿命が長く健康なのに、企業は高齢者の活用をうまくできていない」と、エコノミスト・コーポレート・ネットワークのフローリアン・コールバッハ氏も話す。
(ブルンバーグ 7月12日)
日本経済をマクロに見れば、高齢者と女性の労働参加が増えない限り、経済成長を維持できないのは明白だ。米国やドイツは移民が労働力人口を支えているが、日本では期待しにくい。
ただ、高齢者の就労が数の上で労働力人口の減少を抑制したとしても、高齢者の持つ能力を職場で十分に引き出すことができなければ、国民経済全体が生み出す付加価値はそれほど増えない。
この記事に登場する鈴木氏は、介護の標準的な業務をこなすだけでなく、元エンジニアとしてのノウハウを仕事に活かしている。このように、高齢者が培ってきた経験やノウハウを仕事を通じて社会に活用することが重要だ。そうすることで、労働力人口の維持だけでなく、労働が生み出す付加価値も増え、結果としてGDPの増加を実現することができる。