老いても働き続ける、活躍する高齢の労働者たち 日本
80代も後半になれば、家で暖かいカーディガンでも羽織ってのんびりくつろいでいたいと思う人が大半だろう。だが東京の杉浦輝夫さん(86)は違う。週に数日、シルバー人材センターの作業所に通っては、障子の修理に精を出している。
(中略)
近年、日本では高齢の労働者が至る所で活躍している。工事現場の交通整理員やレジ係はもちろん、自分よりさらに高齢のお年寄りの介護に従事する人もいる。
日本の65歳以上のうち、働き続けている人は2割を超える。これは先進国の中でも最多の割合だ。若い労働力人口が減り、急速に進む高齢化で社会保障への圧迫がますます強まる中、働く高齢者はさらに増えると見込まれている。
今年2月の失業率は過去20年で最低レベルの3.3%と、多くの欧米諸国からすれば垂涎ものの低さを誇るなど、求人需要は十分にある。高齢化に伴い、政府は定年や年金受給開始年齢を徐々に引き上げている。政府は企業に対し、従業員の雇用年数の延長や、高齢者の雇用を推進している。これを受けて自動車大手ホンダは2016年度から定年を5年先送りして65歳にすると発表。適用対象となる従業員は数万人に上るとみられる。
慶応大の清家篤学長はAFPに対し、高齢者の雇用を維持するよう求める市場からの非常に強い圧力が存在すると指摘。企業側は大手も含めて、高齢の従業員数を増やすことに積極的で、この傾向は今後さらに加速するとみている。高齢の労働者のうち50万人以上が、政府が助成する全国シルバー人材センター事業協会からの業務を受けている。
働き続ける理由はそれぞれだが、心身の健康を理由に挙げる人は多い。シルバー人材センターから支払われる配分金は、平均で月3万7000円と決して高くはないが、それでも小遣い銭にはなる。
だが、このわずかな報酬が、今後の生活の「支え」になっている人もいる。センターで働いているある女性は、将来、医療体制の整った介護施設に入る時のために、稼いだ金を大切に貯金している。こうした施設の利用料は30万円近くかかり、自分と夫の年金だけでは、「とても足りない」のだという。
(c)AFP/Daniel LEUSSINK
(AFP 4月7日)
この記事は、フランスの通信社AFPが世界に向けて配信したものだ。外国人から見た日本の高齢者の労働環境や人生観がよく表現されている。
86歳になっても障子の修理という体を使う仕事をしているのは、日本人でも驚きだが、フランス人にとっては、もっと驚きだろう。さらに、働く理由が心身の健康のためというのも日本人らしい。勤勉であることが健康であることの要因と思えるのは、長らく日本人の強みだった。この記事もこの点は好意的に伝えている。
一方で、婉曲的ではあるが、日本の抱える問題にも触れている。高齢化に伴い年金受給開始年齢が引き上げられていること、年金だけでは足りず、勤労によるわずかな報酬が生活の支えになっている人もいること、などは高福祉の欧州から見ると違和感があるのかもしれない。
国家経済が破綻していても、年金削減に反対するギリシャが必ずしも良いとは思えないが、日本人も、外国の実情を見ることで、日本のあるべき姿を考えてみるのもよいだろう。