高齢者のフル就業「年金制度が阻害」 内閣府分析

内閣府がまとめた60歳代の就業行動に関する分析結果によると、働いて一定の収入がある高齢者の年金を減らす「在職老齢年金」がなかった場合、フルタイムで働くことを選択する確率は2.1%上昇し、人数換算で14万人分の押し上げ効果があるとした。内閣府は「制度によりフルタイム就業意欲が一定程度阻害されたことが示唆された」として、制度の見直しが重要と訴えている。
この分析は、厚生労働省の「中高年者縦断調査」のデータを用いた。分析の対象期間は2005~15年、分析対象は05年当時に50歳代だった男性の被雇用者とした。(日本経済新聞 7月12日)

政府は経済財政運営の基本方針、いわゆる「骨太の方針」で、在職老齢年金制度の見直しを盛り込むなど、働けば働くほど年金が減る現行制度の変更へ向けて検討を進めている。政府内でも特に、官邸と内閣府は熱心だ。骨太の方針を取りまとめている内閣府が、年金制度を管轄する厚生労働省のデータを使用して分析し、マスコミに発表するところに霞ヶ関の事情が垣間見える。

省庁間の事情はともあれ、国民経済全体の最適化の観点に立てば、高齢者の勤労意欲を減退させる制度は縮小するか廃止すべきだろう。かつて、リーマンショック直後の不況時には、この制度は定年退職者の早期離職の説得に使われていたことがある。当時は、60歳定年を迎えた後も再雇用で会社に残って年金が減額されるより、60歳で一時金を受け取って離職した方が得だと従業員に説明する企業もあった。しかし、今は、逆に人手不足が深刻になっており、60歳以上の従業員にも、より長い期間、より長い時間働いて欲しいと希望している企業は多い。人手不足が経済全体の成長の阻害要因とならないよう、年金制度も改正すべきだ。