現実味を帯びる定年廃止論、やる気引き出す工夫が必要

構造的な人手不足が深刻さを増しています。将来のさらなる人口減を見越して、定年廃止論もにわかに浮上してきました。
定年退職は急速な高齢化の状況ではもはや適切ではない――。経済協力開発機構(OECD)は今年1月、対日経済審査報告書でこう提言しました。経済活力の維持には定年制度を廃止し、労働力を確保すべきだとの主張です。定年制は世界標準ではありません。米国や英国は年齢差別に当たるとして禁じていますが、日本では雇用慣行として定着しています。廃止は非現実的かと思いきや、日本政府も選択肢としているようです。岸田文雄首相は2月の「新しい資本主義実現会議」で、「仕事をしたいシニア層に仕事の機会を提供するため、個々の企業の実態に応じて、役職定年・定年制の見直しなどを検討いただきたい」と問題提起しました。
(日本経済新聞 3月24日)

年齢差別という基本的人権の問題としてではなく、新しい資本主義というマクロ経済の問題として、政府が民間企業に対し、役職定年や定年制の見直しを迫るのは、筋が違うのかもしれない。ただ、シニアの能力を活かすために役職定年や定年を延長したり、廃止したりする企業は、少しずつではあるが増えている。政府に言われるまでもなく、民間企業は、それぞれ置かれている外部環境や内部環境に応じて、人的資源を最適化するため、自ずと合理的な判断をしようとするものだ。

解決の難しい問題は、むしろ、企業内よりも社会全体にある。「仕事をしたいシニア層に仕事の機会を提供する」場は、企業内に限らない。高齢化社会では、仕事をしたいシニア層が、今所属している企業の外でも仕事の機会を見つけることのできる社会が望ましい。そのような日本社会を作る責任の一端は、岸田首相にもある。