シニア労災は新たな経営リスク、転ばぬ先の「減災」対策
働くシニアの労働災害が増え続けている。就労者数の増加を背景に60歳以上の労災件数は2023年、過去最多を更新した。いまでは死傷者の3割を高齢者が占める。
(中略)
ダイキン工業で家庭用エアコンを生産する滋賀製作所は23年以降、高齢従業員の肉体的負担を軽減する改善活動を進めている。室外機の組み立てラインでは人工知能(AI)の画像認識機能を使って作業中の体の角度や体幹、下肢の状態などを分析し、負担度合いを数値化した。分析結果を受け、大型部品を移すためのスライド式の作業台を自主製作した。台には傾斜をつけてあり、部品を載せると自重で次の工程に運ばれる。
(日本経済新聞 3月11日)
就労者の高齢化に伴い、シニアの労災は増加傾向が続いている。そのため、企業も高齢者の労災を減らす取り組みを強化してきた。ただ、業務プロセスのどこに危険が潜んでいるのか正確に同定することは難しい。その結果、事故が起きてから、その再発防止策を講じることになりがちだ。本来は、事故が起きる前に、危険な作業を抽出して、事前に対策を講じるべきだ。
生産設備のような機械であれば、機械のあちこちにセンサーを取り付け、そこからデータを収集して監視することにより、故障の発生確率を予測することができる。この故障確率を基に、故障が発生する前に修理をする予防保守が可能だ。人間にもセンサーを装着することは可能だが、体中にセンサーを着けると作業に支障をきたすので、常時行うのは難しい。
その点、ダイキン工業が行ったAIによる画像認識は、カメラで撮影した画像を基に作業の危険性を判断するので便利だ。職場内にあるカメラの画像を収集してAIに判断させれば、潜在的な危険性を見出すことができる。AIが対策と効果も学習すれば、危険を指摘してくれるだけでなく、対策も提示してくれるだろう。こうした技術が企業を超えて共有されるようになれば、社会全体でシニアの労災が減ることになる。