企業の「肩たたき」、説得か強要か
上場企業の早期・希望退職募集が2024年に前年の3.2倍、1万人超に急増した。多くは退職を説得する「退職勧奨」を伴うが、労使の受け止め方の隔たりは大きく、労働委員会への救済申し立てに発展した例もある。企業は説得手法の限度を過去の司法判断に求めてきたが線引きは難しい。専門家は今後、パワーハラスメント防止法制の考え方が持ち込まれると予測しており、慎重な合意形成が一層求められる。
(日本経済新聞 1月17日)
日本は解雇が難しい国だ。企業が従業員に退職を強要するのは違法であり、従業員自らが退職を希望するよう説得する他ない。イーロン・マスク氏が米国で行っているようなeメールひとつによる解雇などは、日本では不可能だ。しかし、現実には、日本企業が早期・希望退職を募集するとき、全従業員を一律に対象とするのでなく、対象者を絞った上で、特定の人々に対して、人事部門や上司が積極的に説得を試みるのが通例となっている。そうなると、退職勧奨の対象とされた人の中には、何故自分が対象となったのか納得できない人も出てきて、労使間の合意形成が難しくなるケースも生まれる。
退職への合意形成を少しでも容易にするには、退職勧奨の対象者を選別する基準を客観的に示すことだ。対象者の選別自体が違法というなら、法改正して合法化した方がよい。選別基準が労使で共有され、その内容が社会通念上合理的と判断できるなら、両者の合意も取りやすくなる。
そのとき、「50歳以上」のように年齢を選別基準にすべきではない。かつて、日本IBMは、「成績下位」を基準に実施された勧奨が退職強要にあたるとして提訴されたが勝訴した。年齢よりは成績を基準にする方が合理的、かつ、公正だ。