年金納付5年延長案を断念
「すごいものを見てしまった」。厚生労働省が7月初めに開いた年金部会。部会が終わった後、出席者の間から思わずそんな声が漏れた。何が「すごい」のか。部会の席で橋本泰宏年金局長(当時)が、年金局が長年検討し、来年の年金改正の法案に盛り込もうとしていた改革案(国民年金納付5年延長案)を、今回は断念すると表明した。部会委員の間でも賛成意見が多く、年末に向け、いよいよ議論を本格化させる段階で、政策当局が改革案を取り下げるのは極めて異例だ。
(読売新聞 7月25日)
政策当局が改革案を取り下げるのが極めて異例なのは、改革案は、通常、与党と調整した後に発表するからだ。今回の国民年金納付5年延長案も例外ではない。にも関わらず異例の事態に至ったのは、与党が負担増を嫌うであろう世論に忖度して反対にまわったことによる。
しかし、国民年金納付5年延長で直接損をする人はいない。厚生年金の加入者は負担増にならないし、負担が増える基礎年金だけの受給者も、国庫負担分が増える分、受給額が増えて得をするはずだ。損をするとすれば、国庫負担の増加分を負担する人と言うことになる。したがって、合理的に考えれば、世論が反対する理由はない。ただ、合理的に動かないのが世論でもある。
今回、読売新聞は、国民年金納付5年延長案の意図を説明する記事を掲載したが、マスコミも政治家も世論へ忖度するのではなく、正確な事実を伝えて世論をリードする役割をもっと担うべきかもしれない。