老後資産の減少、85歳でも1割台
老後に備えてためた金融資産が、80歳を過ぎても平均で1~2割しか減っていないことが内閣府の分析で判明した。長生きする可能性を意識して節約志向が強まっているようだ。国内の消費支出の4割を占める高齢者が財布のひもを固く締めれば国内全体の消費を下押しするリスクがある。
(日本経済新聞 7月29日)
この記事が紹介している経済財政白書の主旨は、高齢者が金融資産を消費に回さず、国内の消費支出を抑制して景気を悪化させるリスクがあるので、高齢者はもっと資産を取り崩して消費すべきだし、それができないなら、国が税や社会保障費として吸い上げて他の階層に分配すべきだということのようだ。
この主張は、もっともらしくもあるが、事実の一面のみを捉えて誤った結論に導く可能性がある。問題のひとつは、「長生きする可能性を意識して節約志向が強まっている」理由を考慮していない点だ。
医学が進歩を続けている現在、80歳になってもなお、長生きするリスクは十分にある。一方、年金は制度上、物価上昇に追いつかず、実質年金受給額は減少を続けることがはっきりしている。さらに、多くの人の人生において、統計上、最も医療費と介護費がかかるのは、最期の3年間だ。年金が頼りにならない以上、そのときに備えて、一定の金融資産を維持するのは極めて合理的な判断と言える。