人手不足の中で定年制は必要?

「人生100年時代」と言われるようになりました。人手不足が続く中、多様な人材に活躍してもらうため定年制度を廃止する企業がある一方、「組織には定年制が欠かせない」との意見もあります。
(中略)
 定年制は、米国で「年齢による差別」と考えられており、法律で禁じられています。欧州でも多くの国で廃止されており、今も維持しているのは日本や韓国などアジアの国が中心です。経済協力開発機構(OECD)は1月、日本に定年制の廃止を提言しました。定年制を終身雇用などとともに「日本の伝統的な労働モデル」と位置づけ、「高齢者や女性の雇用、労働力の流動性を阻害している」と結論づけました。
(読売新聞 4月19日)

定年制は年齢による差別だから禁じるべきだという意見と、組織の新陳代謝を促進するために定年制を維持すべきだという考えは、定年制を巡って対立しているように見えるが、実際には、従業員の人権と企業の利益のどちらを優先すべきか、という点で対立している。従業員の人権は企業の利益に優先するという立場を取れば、定年制が組織の新陳代謝促進に役立つか否かに関わらず、年齢による差別である定年制は認められるべきではない。
日本では、人権よりも企業の利益の方が重視される傾向が強かったが、その日本でも、定年制廃止に踏み切る企業が、少しずつではあるが増えてきた。それは、企業の利益の観点から見ても、定年制を廃止することが合理的であるケースがでてきたからだ。OECDの指摘もマクロ経済の観点から定年制廃止が合理的であるとしている。今後も、人手不足に悩む業界を中心に、定年制廃止が広がっていくだろう。ただ、人手が足りている業界にも定年制廃止が及ぶとき、それは、日本が、欧米のように、若い世代でも解雇される可能性がある社会になること意味する。少なくとも、年齢によらず、業務の成果によって解雇するのは差別ではない。