「退職金の前払い」で給与アップ! 九州産交バスなどが業界初の取り組み
モノや人の移動で国民の生活を支えている運輸業界は、その業務の特性上、長時間労働が常態化しやすい業界だ。背景には、ドライバーの採用難や高齢化、またインターネット通販の隆盛による需要増加などがある。
(中略)
10月以降に採用する運転手を対象とし、従来の退職時に退職金を支払う制度以外の選択肢として、退職金の代わりに毎月の給与に手当を上乗せする「退職金なし賃金制度」を設けた。 金額は年齢によって異なり、月額1万5000~2万5000円。入社時にどちらの制度を使うか選ぶという。「未来」の退職金を「現在」の賃上げの原資としたのだ。
(Merkmal 11月7日)
所得税の負担を考えれば、毎月の給与として手当をもらうより、退職金として受け取った方が有利だ。この記事では、かつて、パナソニックが「退職金の支払いを廃止する代わりに、年2回の賞与時に退職金見合い分を手当として支給する制度」を導入した際、新入社員の約60%がこれを選択したことについて、「『終身雇用で定年まで働くつもりはないから』というメッセージかもしれない」と指摘している。しかし、勤続年数が20年以下でも退職所得控除額は40万円×勤続年数だ。たとえ、入社3年目に退職したとしても、給与よりも退職金で受け取った方が税額は少ない。実際、社員が頻繁に転職することで知られるコンサルティング業界では、給与よりも退職金で報酬を受け取ることを希望するコンサルタントが多い。給与が高いほど、所得税率は高いため、退職金にするメリットは大きくなる。
それでも運輸業界が「退職金の代わりに毎月の給与に手当を上乗せする」のは、給与を上げなければ人手を確保できないという現実のためだ。この施策が成功するか否かは、将来の退職金より今の給与を求める運転手がどの程度いるかに係っている。長い目で見れば退職金の方が有利だと分かっていても、現在の生活に困窮しているか、あるいは、今を楽しみたい人は、高い給与を求めるため、一定数の確保にはつながるだろう。この施策の結果を他の業界も注目している。