中高年をデジタル人材に

中高年をデジタル人材にする取り組みが官民で拡大する。厚生労働省はデジタル分野の職業訓練を受ける中高年層向けに、最長6カ月のインターンシップのような形で、企業への派遣制度を新設する。全日本空輸(ANA)なども独自制度を通じ、成長分野で活躍できる人材を増やす。
(日本経済新聞 9月21日)

経済産業省は2030年にIT人材が最大80万人不足すると予測している。しかし、その予測の前提は、AIの進化と普及によって既に大きく変化した。従来は、ITシステムの開発や運用を担う現場のIT技術者が大量に必要とされてきたが、これらの人材の業務は今や生成AIによって置き換えられようとしている。現在も不足し、今後さらに必要になるのは、AIやデータ分析の専門家であって、単純なIT関連業務をこなす要員ではない。

厚労省は、35歳以上の中高年層で新たにソフトウエアのエンジニアやプログラマーなどを目指す人のリスキリングを支援しようとしているが、この中で企業が必要とするレベルのAIやデータ分析の専門家を育成することは難しい。6カ月のインターンシップでできることは限られている。ITを少し知っているという程度の人材の育成では、職業訓練サービスを提供する業界にとってはプラスとなっても、必ずしも社会の需要に応えることにはならないことに留意するべきだ。これに対して、ANAのような民間企業では、中高年の今までのキャリアを活かしながら会計士のような社会の需要が高い人材への転換を目指している。費用対効果に厳しい民間企業の取り組みには、行政も見習うべき点がある。