働く高齢者の貯蓄増加、10年で3倍
働く高齢者の賃金が貯蓄に回っている。総務省によると65歳以上の勤労者世帯(2人以上)が2022年に貯蓄に回した額は月平均11万円と、10年前の3倍超になった。金融資産は60歳以上が全体の6割超にあたる1200兆円を抱える。高齢者に消費や世代間の移転を促す施策が欠かせない。
(中略)
金融資産が一定以上の高い年齢層の間で環流し続ける限り、若年層には行き渡らない。状況を是正するには高齢者の貯蓄が消費や投資に回るような環境づくりが不可欠だ。生前贈与を促す税制の見直しや、負担できる能力が高い高齢者の資産を若年層に再分配するような税制や社会保障のあり方を考える必要がある。
(日本経済新聞 5月2日)
65歳以上の高齢者全体では、収入から貯蓄に回す金額は増えている。これは、65歳以上でも働くことが普通になってきた結果だ。これまでは、年金や資産運用だけでは生活できない層が高齢になっても働き続けるという選択をしてきた。この層は、所得や資産が少ないため収入の多くは消費に回り、貯蓄はあまりしない。経済学で所得の増加分のうち貯蓄に回る割合を限界貯蓄性向と言うが、今までは、この限界貯蓄性向の低い層が高齢就業者の中心だった。しかし、今では、生活に余裕があっても仕事を続け、社会との関わりを持とうとする高齢者が増えている。この層は、今の生活には余裕があるが、将来の年金支給に不安を感じているため、限界貯蓄性向は高い。結果として、高齢者全体の貯蓄性向が高くなる。
つまり、高齢者の貯蓄性向が高くなっているのは、労働市場に参加する高齢者の幅が広がり、かつ、現在より将来に不安を抱く層が増えたからであって、余剰資産が高齢者に無駄に滞留しているためではない。したがって、この事実を「生前贈与を促す税制の見直しや、負担できる能力が高い高齢者の資産を若年層に再分配するような税制や社会保障のあり方を考える必要がある。」という主張の根拠にするのは間違いだ。
税金や社会保障費を取りやすいところから取るという発想では、日本経済全体の成長はむしろ阻害される。国民経済全体の成長のためには、高齢富裕層を優遇することが重要だ。今、パンデミック後の経済リオープンで世界中から富裕層の観光客が日本を訪れている。もし、日本が高齢富裕層に対して税優遇を与えれば、世界中から富裕層が日本に移住し、資産を移して老後を楽しむようになるだろう。日本人の高齢富裕層から若年層への資産を再配分するより、世界の富裕層を日本に集める方が、よほど日本経済の成長に寄与する。