さらば正社員、中高年を個人事業主にした電通の「大実験」

「人生100年時代」を迎え、中高年以降の「第二の人生」が注目されている。そんな中、広告大手の電通が、40歳以上の一部の正社員を個人事業主に切り替える制度を始めた。対象者は電通を退職するが、10年間一定の固定給を得ながら、自分のやりたいことに挑戦できるという。
(中略)
東京都世田谷区の陶芸教室「祖師谷陶房」で、大谷麻弥さん(54)がろくろを回していた。「陶芸家というにはまだまだですが、会社員時代に比べて、少しずつ上達しています」と笑顔を見せる。来年2月には展示会を予定しており、将来は陶芸家として自立を目指している。大谷さんは昨年末まで電通の社員だった。1992年に入社し、18年間アートディレクターとして大手企業の販促ポスターや新聞広告のデザインを担当した。
(毎日新聞 9月21日)

かつて、ソフトバンクが全従業員を個人事業主にすることを検討したが、従業員がフルタイムで働き続けるのであれば、会社も従業員も事務処理が複雑になる割にはメリットが少なく、立ち消えになった。しかし、個人事業主となった元従業員が、今まで勤めていた会社とは違う仕事もするのであれば、話は違ってくる。元従業員は、自己実現の選択肢が増えるし、会社は、必要な労働力だけを得ることができる。

10年間一定の固定給を保障するのは、電通のような大企業だからできることかもしれないが、固定給を支給してでも個人事業主に転換することに、会社としてのメリットを感じているからだ。従来のように、退職金の上積みで早期退職を募ったのでは、転職に自信のある有能な従業員が退職するリスクもある。しかし、個人事業主への転換であれば、有能な従業員との契約関係を維持しながら、人件費をセーブできる。従業員にとっても、固定給を得つつ他の仕事もできれば、むしろ収入は増える可能性もある。電通の実験は、新しい雇用関係の雛形になるのかもしれない。