監査人・内部統制のプロとして歩むキャリアとは【前編】

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松本 茂外志(まつもと しげとし)さん

富山大学薬学部卒業後、中外製薬㈱入社。
CIA(公認内部監査人)、CFE(公認不正検査士)。
入社から一貫して、医薬品マーケティングに従事したのち、同社において1994年~2002年までの8年間、医療用具事業に立上げから携わる。
その後のグループ再編時に、監査部に移り、キャリアを監査人へと転換する。
2002年から5年間、監査部長を務め、2007年から常勤監査役に就任。
現在は同社顧問を務める。

監査とは異なるキャリアでのスタート

三上: まずはキャリアのスタートをお聞かせください。
松本
さん:
大学卒業後、薬剤師として大手医薬品メーカーに就職しました。20代の頃は営業の前線で仕事をし、30代で本社勤務となりました。
そこでは一貫して、医薬品のマーケティングに携わっていました。また、30代前半にビジネススクールで経営を学び、それがきっかけで経営に興味を持つようになりました。

1995年のバブル崩壊前には、オーナーから事業を多角化したいという話がありました。
加えて、収益源が医療医薬品の一本だけでは、経営的にリスクがあるので、新規事業の立ち上げが必要だと、私も考えていました。そのような状況の下、新規事業を行うことになったのですが、そこには多くの困難がありました。
三上: 実際に新規事業を行う上で、どんな困難があったのですか?
松本
さん:
新規事業の出だしの時点では、何も下地がない状況からのスタートでした。
そこでシンクタンクに入ってもらい、実際にどのような事業であれば可能性があるのか、洗い出す作業を行いました。
医薬品メーカーなので、医薬品という枠からは大きく外れたことは事業シナジーが生まれない、という認識がその時にありました。最終的には医療用具の事業を始めることにしました。

新規事業を開始するにあたり、経営側の応援もあり、各部署から人材を50名ほど集められたのですが、優秀な人材はあまり集まりませんでした。関係する様々なセクションは総論賛成、各論反対の状況で、前途多難な記憶があります。

意図せずに始まった「監査人」としてのキャリア

 

三上: 新規事業を行っている中で、大きな転換点はありましたか?
三上さんインタビュー中
松本
さん:
新規事業を走らせて7~8年経った時に、外資大手医薬品メーカーとの提携がありました。
その時にグループ再編があり、メイン以外の事業を手放すことになり、私が立ち上げた事業も手放すことになりました。
必然的に私が立ち上げた事業部に所属していた人は移動せざるを得ず、私自身も監査部に移ることになりました。
その当時、監査部はどこにあるのか、何をしているのかすら、わからない状況でしたね。
三上: キャリアの大きな転換点でもあったのですね。キャリアが変わる際に、どのような考えがありましたか?
松本
さん:
まず、この状況を危機と捉えるのか、それともチャンスと捉えるのかを考えました。
これは自分をリセットする、0にするチャンスだと思いましたね。0ベースから始めるのであれば、その道の専門家になろうと決め、監査について一から勉強を始めました。
CIA、CFEという監査に関する資格を取得し、自分の考えをまとめるために論文の執筆なども行いました。
その後、5年監査部長を務め、2007年に常勤監査役に就任しました。
三上: グループの再編によりキャリア転換を向かえましたが、その時の印象を教えてください。
松本
さん:
キャリアの転換を向かえた当時、アメリカ人の友人から「スタートオーバー」という言葉を教えていただきました。
スタートオーバーとは、30代40代でキャリアの転換にあたり、自分自身のキャリアの棚卸を行い、新たな自分を見つけ出すということです。私も自分自身を見直す良い機会でした。

監査役が本来あるべき姿と役割とは

三上: 監査役は会社組織でどのような役割を果たすべきでしょうか?
松本
さん:
監査役は経営に貢献できなければ意味がありません。会社は業務を執行して、業績を上げることが目的ですが、監査役は業務執行以外の面で経営に貢献しなければなりません。
監査役は、執行側が戦略目標の達成に向けた施策を遂行する上での内部統制上のリスクを識別し、経営に報告することが重要な責務です。これにより、内部統制上のリスクを未然に防止することが出来れば、結果的に監査役が戦略目標の達成に向けて貢献したことになるわけです。

内部統制上のリスクも経営リスクであり、放っておくと事故に繋がるのですが、未然にこれらのリスクを防止することも、監査役の重要な役割です。
また、内部統制という執行とは違った視点で会社を見ることにより、今まで気づかなかった会社の問題が見つかることもあります。

松本さんインタビュー中
三上: 日本の会社だと、監査役・監査部長は上がりのポストと見られてきた過去がありますが、そのような位置づけが監査の軽視につながっているのでしょうか?
松本
さん:
監査の軽視に関する問題は、女性活用問題と同様の問題ではないでしょうか。
制度により、女性を活用しなければならない状況ができていたとしても、実際に女性が働く現場で、女性が活躍できる場を提供しなければいけませんよね。
そのような活躍できる場を提供して、女性たちが実際に活躍することが、女性活用問題を解決する糸口になります。
これは監査も同じで、監査役が社会的立場を上げるためには、監査役自身が成果を残して、実際に経営に貢献することが必要です。
三上: しっかりと機能している監査役、内部統制部門が日本の企業には少なく感じるのですが、どうでしょう?
松本
さん:
まず、監査役を活用できている企業が少ないです。また、監査役自体が機能していない場合もあります。機能していない場合、監査役の能力が足りていない場合が多いような気がします。
執行部門と監査役の役割や考え方は異なる、ということを第一に把握しなければなりません。執行役から監査役になる場合が多くありますからね。
三上: 社外・社内の監査役のあるべき姿を教えてください。
松本
さん:
社内にいる常勤監査役の方は、会社全体を内部から理解し、内部統制上の問題がないか調べるべきです。
監査役の理想としては、内部の視点で「常勤監査役」、外部の視点で「弁護士・公認会計士」。この3者の視点により、会社のガバナンスを強くすることができます。
三上: 近年、社外役員を増やす取組が目立ちますが、社外役員は実際に役立つのでしょうか?
松本
さん:
社外役員に登用される方は、経験豊富な方です。ですので、使い方が大事です。
例えば、取締役会に事前資料などを渡さず、ただ当日に取締役会に来てもらって、その場で資料を見てもらうだけだと、何もできないですよね。
取締役会の事前に資料を準備して、社外役員の方にもしっかりと読込んできてもらうことが重要です。

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