-第1回-高年齢者雇用安定法の制度趣旨と重要ポイント
はじめに
こんにちは。社会保険労務士の横井と申します。港区に事務所を開業してもうすぐ5年になります。
創業期のお客様から数百名規模のお客様まで、業種も多岐にわたるお客様にお世話になっております。
事務所のサービスドメインとしては、給与計算、助成金コンサルティング、就業規則の策定といった一般的な社労士事務所の業務も担っておりますが、保険料削減コンサルティング、労働紛争に関するコンサルティング、人事評価制度の設計、賃金テーブルの見直しなど、恐らく一般の社労士事務所ではなじみの少ない分野も得意としています。
さて、本コラムにおいては、主として労働市場における高齢者活用に関する考察を、企業の人事施策上の観点から加えて参りたいと考えております。
具体的には法制度に関する知識、法改正の動向(場当たり的ではない高齢者活用施策の検討)、高齢者活用を後押しする助成金の制度、そして現実に企業の人事担当者に寄せられることの多い働きながら受給する年金の問題などについても触れて参ります。
なるべく気軽に読める内容、だけどそれでいてちょっと新しい観点から、これらの問題についての検討をしたく思っておりますので、皆様、どうかよろしくお願い致します。
第1回となる今回は、「高年齢者雇用安定法の制度趣旨と重要ポイント」についてみて参ります。
高年齢者雇用安定法の制度趣旨と重要ポイント
世界の先進国の中でも、群を抜く少子高齢化の急速な進行により、今後、労働力人口の減少が見込まれている日本。
そんな中で、我が国経済の活力を維持していくためには、若者、女性、高年齢者、障害者など働くことができる全ての人の就労促進を図っていく必要があります。
従来の硬直的な「現役世代」(支える世代)とそうではない世代とを、画一的に年齢で区切ったり(或いは本コラムでは取り上げませんが、性別で区切ったり)することは、今後の日本のあらゆる諸課題(経済・財政問題、社会保障制度の再構築等)を考えたときには必ずしも得策ではありません。
全ての人が社会を支える「全員参加型社会」の実現(厚生労働省「高年齢者等職業安定対策基本方針」平成 24 年 11 月 9 日厚生労働省告示第 559 号)が求められているのです。
このうち、高年齢者の労働力化推進を法制度として後押しするものが高年齢者雇用安定法です。同法は、高年齢者が健康で、意欲と能力がある限り年齢にかかわりなく働き続けることができる社会(以下「生涯現役社会」という。)の実現を目指しています。
しかし、それは裏を返せば、日本はもっと高年齢者の活用を進めていく必要がある切実な課題をもっている国であるということも意味しています(この点に鑑みて、高年齢者の雇用促進につながる各種の助成金も設けられています)。
また、一般的な定年60歳制度のままでは、平成 25 年度から公的年金の報酬比例部分の支給開始年齢が段階的に 65歳へ引き上げられていくことに鑑みますと、雇用と年金の確実な接続等を図ることもできません。
そこで、平成24 年第 180 回通常国会における高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の改正という経緯につながってきたわけです。
この高年齢者雇用安定法の根幹をなすものは、なんといっても高年齢者の65歳までの雇用確保の義務が事業主に課せられた、という点にあります。
また、この雇用確保義務は事業主(企業)の規模や業種に関わりなく、全ての企業が対象とされています。
しかしながら、よくある誤解は、改正によって「定年を65歳にしなければならなくなった」というものです。定年の定めを法的に65歳にしなければならなくなったわけではないのです。
同法が規定しているのは、定年を65歳にしなさい、というわけではなく「65歳までの継続雇用」を企業に課しているという点に留まります。
従いまして、定年制をたとえば60歳としているからといって、それが直ちに同法違反のそしりをうけることにはなりません。
また、継続雇用部分の労働契約は正社員に限定されるわけでもありません。
1年毎の有期労働契約の締結により1年毎にパフォーマンス評価を実施する仕組みや短時間正社員制度による就労、パートタイム労働であっても、これは継続雇用制度の一つとして同法において認められています。
また、現在の改正高年齢者雇用安定法が施行される前(平成25年3月31日)までに労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主については、経過措置として、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者に継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることが認められています。
従いまして、例えば年金支給開始年齢に先立って、60歳で定年退職し、退職金と年金を前倒しで受け取り、あとは年金受給額に影響のない範囲でパート勤務を行うという就労形態を労働者の不利益なく実施することも可能です(ただし、高年齢者によって、より積極的に企業業績にコミットした就労を希望されている場合等には、パート勤務等ではモチベーションが保てず、結果として企業側にとってもデメリットに響くという場合も想定されますから、制度(法対応や企業の人件費コントロール)上の問題解決につながることと、投下した人件費の効率的な運用とは次元が異なる場合も少なくないことに注意を要するでしょう)。
このような場合には、就業規則上の定年の定めは例えば60歳であったり55歳であったりするものの、就業規則の末尾等に経過規程をおくなどで改正高年齢者雇用安定法への対策を講じることができます。
就業規則規程例:経過措置を利用する場合の例
第○条 従業員の定年は満60歳とし、60歳に達した年度の末日をもって退職とする。ただし、本人が希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない者であって、高年齢者雇用安定法一部改正法附則第3項に基づきなお効力を有することとされる改正前の高年齢者雇用安定法第9条第2項に基づく労使協定の定めるところにより、次の各号に掲げる基準(以下「基準」という。)のいずれにも該当する者については、65歳まで継続雇用し、基準のいずれかを満たさない者については、基準の適用年齢(本条第2項)まで継続雇用する。
(1) 引き続き勤務することを希望している者
(2) 過去○年間の出勤率が○%以上の者
(3) 直近の健康診断の結果、業務遂行に問題がないこと
(4) ○○○○
2 前項の場合において、次の表の左欄に掲げる期間における当該基準の適用については、同表の左欄に掲げる区分に応じ、それぞれ右欄に掲げる年齢以上の者を対象に行うものとする。
以上、平成25年4月1日施行の改正高年齢者労働法の制度趣旨と重要ポイントについてみてまいりました。次回は、高年齢者の雇用を推進する趣旨をもつ助成金「高年齢者雇用安定助成金」等についてみていくことにします。