-第5回-「高年齢者雇用安定助成金総括~これからの助成金へ求めることなど①~」
高年齢者の労働力化推進を法制度として後押しする高年齢者雇用安定法の制度趣旨と関連し、当コラム第2回では「高年齢者雇用安定助成金(高年齢者活用促進コース)」について、当コラム第4回では「高年齢者雇用安定助成金(高年齢者労働移動支援コース)」についての概要をみてまいりました。
今回は、高年齢者雇用安定法とそこに関連する助成金の仕組みについて、これまでみてきたところを踏まえまして、今回(第5回)と次回(第6回)の2回シリーズで、いったん総括をして、自社の高年齢者活用に対するスタンスを再考し、結果として助成金の活用時の留意点やこれからの自社における高年齢者活用策について等の検討を加えて参りたいと思います。
【1】高年齢社員の活用と助成金の関係
ときに「助成金」と聞けば、「国からもらえる返済不要のお金」という謳い文句が各種の士業を含めた助成金コンサルティング機関による広告に見受けられることもあって、極一部の事業主の中には助成金の受給について、過度な期待を持ってしまう方もおります。ストレートに申し上げれば、「助成金によって儲ける」という意識のみが強く働きすぎる事業主です。
しかし、そこまでの事業主は少数派として、こうした広告文言や助成金の活用そのものを否定するつもりは全くないのですが、助成金を受給する本来の目的意識から外れてしまっては、結果として企業の業績に悪影響が生じ、引いてはせっかく労働の機会を得た高年齢者にとっても好ましい事態には必ずしも至りません。
助成金は企業経営上、文字通りその「助成」につながるものではありますが、助成金の受給は継続的な業績向上の担保となるものではありません。多くの助成金の受給は一過性のものであり、継続的な雇用関係においては、それ以上に高年齢者に支払う人件費の方が裕にそれを上回るため、「高年齢者」に活躍してもらう土壌作りが欠かせないのです。
すなわち
・企業としては、高年齢者の有効活用をしっかりと検討できていないままに助成金受給をしてしまい、助成金の受給と高年齢者へ支払う人件費のアンバランスを生じさせる。
・高年齢者としては、企業の業績へのコミットメントがしずらい、自分がどのような役割を組織の中で果たすべきかが不明瞭etc.といった理由から働く楽しみが見出しにくく、結果として継続的な就労つながらない。
といった事態になりかねないわけです。
従いまして、高年齢者の真の雇用の確保のためには、高年齢者の人事管理はそれだけを取り上げて検討されるべきものではなく、企業の人事管理全体の一部としてこれを捉えていくことが重要となります。
【2】高年齢者の評価制度の課題
企業の人事管理としては、「人事制度」「配置・異動」「労働時間」「報酬制度」etc.といった幾つものポイントがあるわけですが、ここでは、例えば人事制度の中心となる高年齢者の評価制度についての現状考察をしておきたいと思います。
(出所:『「高年齢者の部下がいる管理職の評価行動と高年齢者活用の管理職への支援」に関する調査研究報告書』-独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構平成24年度)
①正社員(60歳以上)と嘱託社員(非正社員である60歳以上の継続雇用者)の評価の有無
※調査の対象:「60歳以上の社員である部下を持つ管理職」
②正社員と嘱託社員の評価尺度の構造
③「業績評価」の実施状況
④「能力評価」の実施状況
⑤評価制度に感じる2大課題
以下、各図表の中で特に気になる数値について、簡単に触れてまいります。
・図表①について
高年齢者の有効な活用のためには、一過性のものではなく、企業全体の人事管理の一部としてこれを捉えて取り組んでいく必要があるわけですが、この取り組みの一つとして評価制度の実施が挙げられると思います。この点、高年齢者を部下に持つ管理職の殆どが何らかの評価制度を実施しているという状況には、個人的な現場の感覚から致しますと数値が高めに出すぎているという印象を持ちます。しかしながら、これは既に高年齢者を組織に受け入れ、実際に高年齢者活用を行っている管理職であるためで、高年齢者活用のためには、やはり人事評価の実施は欠くことのできないポイントであるのだと考えられます。
・図表⑤について
高年齢者を活用する多くの企業において、人事評価が実施されている一方で、管理職の多くが、評価の結果が高年齢者である正社員、嘱託社員の処遇に反映されない、という点に課題を感じているという状況が分かります。
以上、第5回では、高年齢者雇用安定助成金総括~これからの助成金へ求めることなど①~」と題して、主として、高年齢者活用に対するスタンスを再考と助成金の活用時の留意点といったところをみて参りました。次回は、今回の続きになります。これからの自社における高年齢者活用策について等の検討を加えて参りたいと考えております。