ロボットが拡げるシニアの雇用機会

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長らくロボット大国と言われ、産業用ロボットでは今なお競争優位を保っている日本のロボット技術ですが、近年、その技術を応用して人の運動能力を支援するロボットの開発が加速しています。

応用される動作支援ロボット

たとえば、筑波大学の山海教授が開発し、大和ハウスが販売しているロボットスーツHALは、人の生体電位信号を検知して、人の筋肉の動きに合わせてロボットを動かします。生体電位信号とは、脳が筋肉を動かそうとするときに脳から筋肉に送られる信号が電位の変化として皮膚表面に現れたもので、これをセンサーで検知して解析すると脳がどの筋肉をどのように動かそうとしているかが分かります。したがって、生体電位信号に合わせてロボットを動かすと、その人が意図したとおりにロボットが動作し、あたかも自分の筋肉が増強されたかのような感覚で運動することがでます。

HALの実証実験では、次のような成果が報告されています。

  • 2年間車イス生活を余儀なくされていた脊髄損傷患者が歩行できるようになった。
  • 脳卒中で片半身麻痺となった患者が脚を屈伸できるようになった。
  • 生後11ヶ月でポリオに感染し、45年間歩行できなかった患者が生まれて初めて自らの脚を動かせた。

HALはもともと、こうした高齢者・障害者の自立支援を目的として開発されたロボットですが、応用分野はそれに限りません。健常者が装着すれば、その人の筋力以上の力を出すことができますから、重い荷物の運搬など、今まで人間ではできなかった作業を行うことができます。

たとえば、和歌山大学が開発している農業用アシストスーツLiBERoは、農作業を楽にすることを目的とした動作支援ロボットです。

日本の山間部の斜面では、よくミカン、ブドウ、柿などの果樹が栽培されています。これらの傾斜地では、大型の農業機械を使うことは難しく、どうしても人力に頼らざるを得ない作業が少なくなくありません。高齢化の進展に伴い、重労働に耐えかねて果樹栽培をあきらめる農家も増えています。

LiBERoは、HALのように生体電位信号を解析するのではなく、関節角度や靴底にかかる圧力などを計測して作業姿勢の変化を検出し、装着した人の意図を理解して、そのとおりにロボットを動かします。体の不自由な障害者の方にとっては操作が難しい面がありますが、普通に体を動かすことのできる健常者向けとしては十分な機能です。機能を単純化した分、着脱が容易になるという利点もあります。こうした使いやすい動作支援ロボットがあれば、山間地での農作業を容易にし、筋力の弱い高齢者でも農業を継続することができるでしょう。

動作支援ロボットにより広がるシニアの雇用機会

このように、人間の動作を支援するロボットが実用化され、人間の運動能力の限界が拡がるようになると、シニアの働く場も拡大することが期待されます。

今まで、運動能力の低下によって諦めなければならなかった業務にも従事することができます。農業はその典型的な例ですが、それ以外にも物流や建設、製造現場など多くの分野で活用される可能性があります。

介護の現場でも、介護を受ける人が運動能力を回復して生活の質を向上させることができると同時に、介護する側の肉体的な負担を軽減することも期待されます。介護作業が肉体的に楽になれば、高齢の介護者が介護をすることも可能になります。ここでも、シニアの活躍の場が拡がることが期待できます。
以前、シニア活用の記事で取り上げた中にも介護ロボットの普及に関する内容のものがあります。

国も介護ロボットの本格的な普及をめざし、介護現場のニースを踏まえた機器を開発し、実用化をはかっていくとしています。
経済産業省と厚生労働省は、ベッドから車いすへの移乗介助、移動の支援・介助、排泄支援、認知症の人の見守り、入浴支援を重点分野と定め、2013年度から約24億円を「ロボット介護機器開発・導入促進事業」に投じることとなりました。(「介護業界の救世主となるか?-「介護ロボット」-」)

動作支援ロボットの普及には、技術だけでなく、法律や制度の整備、コストの低減など、乗り越えなければならないハードルがまだ残されてはいますが、ハードルを越える日はそう遠くはなさそうです。一日も早く、こうした動作支援ロボットを日常的な道具として多くの人々が使い、シニアや障害者の働く場が拡がることを期待しましょう。