-第4回-「新型うつ病」への対応に関する情報
先日、うつ病の予防・治療日本委員会が主催する講演会で「職域における『軽症うつ病』に対する介入の意義」というお話を、認知行動療法、第1人者の大野裕先生からお聴きしました。
先ず「新型うつ病」という言い方は学問的に決めたものではない、昔から存在したものでは「スチューデントアパシー」があった。学生がせっかく入った学校なのに、無気力で体調が悪く行けないといって休んでいる、ところが休暇になると元気になる、という病気が以前からあった、と苦笑しながら話されていました。
軽症型と言われるが、本人が辛いことは間違いなく、休職しても同じ職場に復職するとまた再発し、休職、復職を繰り返してしまう。
薬は効果が無いので、低強度の認知行動療法を職域グループで導入することを研究中です。事前調査と集団教育をし、自分の行動を段階的に振り返る。
自分で認知する「くせ」の改善を繰り返す等を積み重ねることによって病的な行動が変わってくる。ということは、気持ちが改善され、自信がついて元気になっていく効果があるようです。
要するに、厳しい環境に出会っていないために起こる自分の行動への不安を、より軽度な体験の積み重ね、周囲からの承認や自分の記録する実績の認知によって、やればできるのだ、という自信を少しずつ増やしていくことが効果的、ということです。
その少し前に朝日新聞社で行われた「働く人のメンタルへルスセミナー」でお聞きした日本産業ストレス学会理事長の夏目誠先生のお話も、とても有益なものでした。
休職者の発生により①労働力が少しづつ低下し補完コストがかかる。
②休職することによって傷病手当金、代替人件費等の費用負担が発生。③復職してもリハビリ勤務等補完する経費発生。
この費用発生期間を①休職前3か月、②休職6か月、③リハビリ勤務3か月、とすると、年収400万円の人でも、280万のコストが発生する。訴訟等になると、賠償金、裁判費用、弁護士費用など膨大な費用が掛かる。しかも、休養から治療、復職となっても、1年以上休職となるケースが多く、しかも復職しても再発する比率が高いのが実態である。
そこで夏目先生のご提案は、最初は静養としても早期に運動とカウンセリングを併用し再発防止を念頭に置いた復職準備訓練を実施することが有効であるとされています。
確かに、運動すること、時間目標を決めた復職支援プログラムを、状況把握とカウンセリングによる支援を行っているのは、安易な休職を抑止する力になるだろうと思われます。
お二人の見解は、行動のひずみなので行動の矯正で直すのが早道ということでしょう。
このコラムの最初に示したように、ストレスに耐える力を持つことがうつ病にならない先決の課題です。
わが国では幼児期に甘やかす習慣があり、自立心を育てる訓練が欠けています。特に最近は、甘やかせる母親と一人っ子の関係が、よくあるケースのようです。
一人一人の自律自立を尊重するということは、それなりの厳しい躾を幼時より養う必要があるわけです。
外国映画のシーンでよくあるように、幼児には一人一人でベッドに行って寝かせるのが当たり前から始まり、自分の考えをきちんと主張することが出来ると同時に、社会公共的な責任や他者に対する配慮を持つこと、高校を終了した後の学費は一人前の人として自分でアルバイトして稼ぐのが当然といった自己責任を持った社会人になることが必要なのでしょう。
社会人になった早々に、ちょっとした叱責に大きなギャップを感じ、それがストレスとなって自分勝手型の「うつ病」になる、というひ弱な大人からの脱却が望まれます。
思いやりも優しさも必要ですが、立派な見識と行動力を備えた人になるという自律的な訓練を、心がけるところから、より強い、より安全な社会が出来ていくことを期待します。