-第3回-「新型うつ病」に、みんな困っている

tsutsumi_kanban

 確か4年前の4月、大手企業の友人から、今年の新人は大変だという話がでた。
入社式初日、社長の訓示、激励を受け、人事部から会社の歴史や就業規則など、定番の新入社員教育を始め、社長をはじめ、会社幹部と会食して解散したが、2日目の朝、昨日の終わりに宿題とした初日の感想文を提出するようにというと、書いていない者がたくさんいる。
昨日指示しただろうというと、あれは自分に言われていることと思わなかった、という。教育を開始すると、このような自己責任を自分勝手と考え違いする所が各所で出てきて、これが「ゆとり世代」の教育を受けた最初の卒業生だとすると、これからしばらくの人材育成はとんでもないことになる、と人事部は頭を抱えている、ということであった。

 それから今日に至る間、次に起こってきたのは「新型うつ病」の問題である。
若い社員を上司が叱りつける。それは仕事を教え込むもっとも普通で手っ取り早い方法であったのだが、本人は翌日から会社に出て来なくなり、数日後、(うつ病)という診断書をもって現れ、頭痛がして眠れず、食べられず、とても仕事が出来る状態でない、医者は即、休養するしかない、この型のうつ病は薬が効かないのだ、と言われたという。
産業医とも相談し人事も了解して、とりあえず1か月の休養を指示する。
それでなくてもみんなは忙しく、一方では残業を減らせという指導もあり、残していった仕事をみんなでカバーさせるのに上司は奔走する。
2週間ほどして、一度様子を見て来いと、同僚に訪ねさせると、知らぬうちに海外旅行に行っていることが分かる。
とんでもないと、上司・人事は怒り心頭だが、本人は仕事から離れると元気回復したので休養に行ったと反省の気配はなく、逆に会社や上司のせいで病気になったと、非難しているという。

 これが「新型うつ病」の典型なものの一つである。
これまでの(うつ病)は、真面目で内向的で、責任感が強い中高年者が多く、何かうまくいかないことを自分がだめだからだと思い詰め、不眠、食欲不振となり自殺念慮も強いので、下手に「頑張って」と元気付けると、かえって自責感が進むので注意するようにと言われる。
近年では有効な薬が見いだされ、多用されているが、病気を長期化させる原因にもなっているようだ。
 「新型うつ病」という言葉は医学的に定義されたものではなく、(現代型うつ病)ともいわれている。
従来型とはまったく違う症状で、多くの項目で従来型とは反対の症状となっている。1970年代からこの型の存在は指摘されていたが、90年代から急速に増えたうつ病にはこの新型の増加が影響していると思われる。
若い人に多く、自己中心的、他責的で、会社のやり方や上司の言動のせいで自分は病気になったと思っている。
子供のころから、甘やかされ叱責された経験が無く、打たれると弱い。仕事は嫌いだが、遊びには喜んで参加する。

 しかし、本人は見かけとは別で、心身共につらい状況で、疲労感や頭痛があり、身体が鉛のように重く、気分が落ち込む、将来の展望が見えないという困った状態である。
会社は、せっかく採用した若者が活用できず、会社に貢献せず保険の負担だけがかかる、上司、同僚は、仕事がさらに過重になり、復帰してきた時、ストレスをかけないようどう対応するのかに気を遣い、仕事の継承もできず、チームワークが崩れ、大いに困る。
医師、産業医、保健関係者、カウンセラーなどには、扱いにくい患者ということになる。
要するに、みんな、この迷惑な状態にどのように対処するのか、大変困っている。

 最初に「ゆとり教育世代」ショックから始めたが、この状態はもっと大きな問題で、人が成育する過程で躾られるべき時に適切な躾が出来なかったことが、自分勝手の性格を形づくり、ストレスに弱い人間が出来てしまったものと考えられる。時間がかかるが、少しずつ行動を矯めながら、進めていくことしかないようである。 
 (参考:「すぐ会社を休む部下に困っている人が読む本」緒方俊雄。幻冬舎新書)