-第1回-こころの健康に立ち向かう
だれでも、健康で長生きをすることで、ただ1回しか経験することのない掛け買いのない自分の人生を、働きがいがあったと思いながら終わることを望んでいると思います。
しかし、思っているように物事が進んで行かないのは世の常と思わなければなりません。
今年も2月に入ったばかりというのに、私達の勉強のグループである「日本キャリア・カウンセリング研究会(略称JCC)」は、会長今野能志(ともゆき)さんを失いました。昨年春から難病に取りつかれ、自ら病名を告知して闘病に専念すると宣言し文字通り病気に立ち向かう気力を尽くして頑張られましたが、残念なことに65歳の若さで、私達と、幽冥、境を異とすることになってしまいました。
人それぞれもって生まれた運命だ、と言ってしまえば正にそれまでですが、私はそうでは無い、人は、ただ1回しかない人生をもっともっと大切にするべきであり、まだ、そのために努力する手段が残っていることに気づき、それぞれの方法を身につけるべきである、と
強く思っています。
我々の人生を少し振り返ってみても、人が亡くなる要因はずいぶん変わってきていることが分かります。69年前、第2次世界大戦で日本は敗戦の憂き目を見、この戦争で300万人以上の貴い人材を失いました。その後、この長い期間、戦場にならない国土を継続できていることは、まことに有難いことです。終戦から後は衛生状態、医療技術の目覚ましい進歩がありました。昔は母親も赤ちゃんも出生直後に亡くなることも多く、その後も、乳幼児の伝染病への感染、食中毒など、衛生、看護状態の劣悪さから、成人に至らないケースを目にすることも多かったのです。開発途上国では、いまだに現実に存在していることです。幸い、現在わが日本では世界第一級の衛生環境にあり、世界一の長命を誇ることが出来ます。
しかし、このところ「こころの健康」について、いろいろな問題が起こり、健康な生き方の内容が変わってきています。物理的な健康より心理的な健康が大きな問題であり、本人の資質、健康管理もさることながら、周辺の環境、人間関係への対応の影響が大きく、対症療法より予防対策で、より健康的な生き方に改善、維持することが重要になってきています。
今回のコラムでは「こころの健康」に立ち向かうことを重点に置いて、いろんな観点から、健康への気づきに結びつく情報をお伝えしたいと思います。
最近、あるセミナーで教えていただきました。うつ病の患者さんは100万人を突破したとされているが、これはあくまで病院にかかった患者の数であって、受診率を4分の一とすると、病人は400万になる。うつ病学会理事長の神庭先生は、潜在的病状を持っている人を推定すると、700万人にはなるだろうとおっしゃっている、ということです。
この原因についてはいろんな社会的現象が交錯して、現在の状態に至ったと考えられますが、要するにいわゆる「ストレス」が過剰に発生し、それに対応することが難しい世の中になっていることに病気のメカニズムの根幹にあること、が、最も大切な問題なのです。
そこで、米国国立労働安全衛生研究所の職業ストレスモデルを見ましょう。
参考(1)市川佳居「EAP導入の手順と運用」より引用
①仕事のストレッサー。ストレスの原因になるものをストレッサーと言います。
仕事の目標、給与、昇格、賞讃、名誉、等動機づけと言われるものすべてです。
②ストレス反応。そこで行動しますが、ストレス過剰な状態が続くと行動に変化が出ます。
憂鬱、興味がわかない、疲れやすい、集中できない、眠れない、会いたくない、など。
③疾病。そして、身体症状、精神的症状、人間関係、が異常になる。これがうつ病です。
④個人要因。人によって、ストレスに耐える力、パーソナリティには違いがあります。
⑤仕事以外の要因。経済的な困窮、離婚、家庭内の不安、健康の不調、等。
⑥緩衝要因。仕事の同僚、上司等周囲の援助、相談できる人、メンター、関係情報、等。
①から、②、③へ進むか踏みとどまるかは④、⑤、⑥の関与が大きく影響します。
ここにこころの問題の難しさ、複雑さがあって、簡単に行かないものなのです。この構造を前提に、以下、個別にどんな内容があるのかを考えます。