-第7回-内発的動機づけと内的キャリア
私は、20年前から人材紹介企業で中高年齢者の再就職支援をするための意識改革研修を企画し、大学の非常勤講師として「高齢社会」の講座を数年担当した。一方、厚生労働省のキャリア・コンサルタントの養成についてお手伝いをしたりして、「キャリア」という言葉が広まらない時代から、人の一生の各段階の生き方、働き方について、考える機会を多く持った。
今は某大学で大学2年生を中心とする「キャリアとライフ」という授業を分担しているが、私の担当は「生き方、働き方とは」で、人はなぜ働くのか、から始まって、あなたはなぜそのような職業選択をしようとするのか、天の呼ぶ声が導くという意味で、あなたの「天職」はどのようなものだろうか、を考えさせようとしている。
このコラムの対象はこれから就職する若者ではなく、人生の折り返し点に立つ中・高年者で後半人生をどのように設計しようかと考える方々である。テーマは「働くことの意味」について考えようとするので若い人と同じ問題であるのだが、ここでそれぞれの経験や立場に応じ、これからの自分の人生について対策を考えることになる。企業人生の終了期にあたる皆さん方が、改めて自分の就活をどのようにしてきたのか、自分の「天職」は何だったかなどを考え、今後の自分の「働くことの意味」を知る手がかりとしたい。
仕事を決める際に自分自身に問いかけてほしいことは2つ
考えてみると、皆さんの企業就職時代は、環境が違うからとはいえ、いったいなぜこの企業この仕事を選ぼうとするのかなどについて、論理的な理由は全く考えず決めたことを改めて反省するのではないだろうか。
現在は就職情報として調べようと思えばおびただしい情報が飛び回っていて、情報をどのように評価するのかが分からなくて困っているのだが、本当はそんな浅薄な情報はどうでもいいので、もっと大切なことを真剣に考えることが必要なのである。
そこで何が大切かというと、今回のテーマである「内発的動機付け」と「内的キャリア」を徹底的に考えることである。「内発的動機付け」とは、その仕事につこうとした時どんな動機が自分の中にあるのか、「内的キャリア」とはどのような生き方、働き方をしたいと思って仕事を選んだのだろうか、ということである。
給料が高いから?いい場所にあるから?よく広告に出ているから?その会社を選んだのであれば、それは「外発的動機付け」が導いた選択のプロセスである。その前にどんな仕事をしたいのか、なぜ、その仕事がやりたいと思ったのか、という自分の内面を考えるプロセスは無かったのだろうか。それによって中年、高年になった際に対面するさまざまな「人生の節目」に対し、その人らしい対応の形が大きく違っていたものと思われる。
モチベーションを長く保つためには「内発的動機づけ」
モチベーションとは「動機」が刺激され、行動が引き起こされるプロセスである。
マズローの欲求5段階説によると、人間の欲求の、生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求、までは、何かの「欠乏」を充足する次元のものであるが、承認の欲求、自己実現の欲求となると、自分の目標に向かって「成長」する欲求に「動機」が進んでいるのである。欲求の内容が、人間関係をより豊かにするもの、自らの成長、発達を目標とするものになっていることが分かる。
具体的な手段を考えてみると、お金、褒める、昇給・昇格、等の「外発的な動機づけ」と、したことそのものが面白い、やりがいがある、一層関心が深まる、等、仕事の中に潜んでいる「内発的動機づけ」があること、が考えられる。
ではそのどちらがより効果的か、継続性があるかというと、外発的動機づけに直接的、即効的な効果があることは間違いないところだが、同じ動機づけを繰り返していると、益々より刺激的な報酬を求めたり意欲が長続きしないという研究が報告されている。
内発的な動機づけは仕事そのものの中に現れてくるものであり、自らの創意、工夫が評価され自発性が高いので永続力も高いようである。ただ、そのような仕事の内容を常時与えられるか、能力と課題のバランスによって自己決定感が減少する恐れも指摘される。
そこで、仕事の中の欲求の内容を考えると、個人それぞれの価値観の違い、能力の違い、が内発的動機の違いをもたらしてくる。仕事の動機に結びつけて考えるためには、個人の仕事に対する考え方、向き合い方の違いを研究する必要がある。引続いて「内的キャリア」を考えることにしよう。