-第8回-「うつ病」の予防対策について考える
「うつ病」の予防について書いてほしいという注文をいただいた。具体的に何をするのかが分かりにくいことなので、質問が出ることは理解できるが、一筋縄な問題ではないので答えるのは簡単ではない。産業カウンセリング学会の友人である緒方俊雄さんの「慢性うつ病は必ず治る」(幻冬舎新書)を参考にさせて頂きながら、説明してみよう。
うつ病とは
気分が落ち込むことを「うつ状態」と言う。誰にでもあることで、仕事やプライベートの失敗などから生ずる気持ちの状態である。「うつ病」というと、ただ気持ちが落ち込むだけでなく、夜眠れない、食欲が減退する、気力がなくなる、集中力が低下する、などが起こり、それが2週間以上継続することである。「うつ」だけではなく、気分が高揚した「躁」状態を周期的に繰り返す「躁うつ病」になる場合もある。
なぜ「うつ病」になるのか
それではなぜ「うつ病」になるかというと、①個人要因として「うつ病」になりやすい病前性格の人に、②高いストレスがかかり、③仕事以外の要因や、④周囲の緩衝要因が、適切に支援してくれていないと、「うつ病」が発症する。病前性格とは、生まれつきの遺伝的要因と、出生から幼少期の両親・兄弟との家庭環境、小・中学期の教育、いじめ体験、等の生育環境の違いなどが作り上げたもので、基本的な性格としての大きな差は、人生をポジティブに受け入れることができるかどうかの違いにある。
それは、生まれてから3歳くらいの間に養育者(母親)から、充分な愛を受けた子供は、自分に対して十分な信頼感を持ち自分も心の安定を保つことが出来る。(自分に自信がある)そうでない子供は、誰か強い人に依存したり(依存型)、自分が支配する方向や(支配型)、孤立に向かう(孤立型)ことで心の安定を得ようとする。すべて、自分への自信のなさによるので、自信のあるこどもはポジティブな行動が出来るが、それ以外は、ネガティブなスパイラルとなり「うつ状態」に向かう。
ストレスについては、勤労者の受ける出来事(配偶者の死、会社の倒産、左遷など)をストレス点数化したストレス評価表が作られているが、同じストレスの強さであっても、病気を発症する人もあれば、問題なく切り抜けている人も十分存在する。
予防法1
ストレスコーピング訓練で、幼時以降の人間形成期に充分な自信を高める経験をしていない人に行動レベルの訓練をしてポジティブな経験を積み上げていくことで、それによりストレス耐性を高める。(自律訓練法、ヨガ、呼吸訓練、等)
一方管理者には、部下の気持ちをくみ取り、話を聴く訓練が有効で、元気づけるフィードバックをし、目標を確かめ上位を目指す意識を高める。(カウンセリング訓練、傾聴訓練)
予防法2
管理者が直接、チームメンバーの日常の異常に早く気づき、ストレスの緩和を以下のように具体的に指示、残業状況のチェックなどによる対策を実行すること。
①頑張りすぎないこと、②完全をやろうとしない、③仕事に優先順位をつけ実践する、
④自分で抱えこまない、⑤自分の意見を言う、合わない人とは付き合わない、など。
予防法3
関係者が連携し縦割りでなく一段上の観点から最も良い方策を探し出すこと。
産業医を中心に、専門医、社内安全衛生担当、人事勤労責任者、上司・同僚、が定期的に話し合い、健康診断、医療行為、休職・復職の判断、家族との情報交流、等を有効に実践するチームワークをすること。
予防法4
会社全体がこの「うつ病」の予防を一つの材料として有益な活動になるように配慮すること。経営者は、経営組織がより活性化に繋がっていくように社内の専門家と話し合い、効果を上げるように考えること。人事部門はかけがいのない人材を失わないよう、それぞれ個人のキャリア計画との整合性を確認する必要がある。