-最終回-「キャリア開発」が個人と組織の共生を作る
「いい会社」とは、「キャリア開発」を会社の基本理念に置き、組織で働くすべての人たちが、それぞれの自己実現を達成することが出来るような活動環境が作られている組織集団のことである。「いい会社」は、どのようにしてできるのか、考えてみよう。
ここで10回目を数えるコラムの題名は、「個人と組織とが、新たな活性化をするために」となっていることに注目してください。
これまでのコラムで分かったことは、以下のようなことであった。
- 人は働かなければ、生きていくことが出来ない。仕事が必要である。
- 人は一人では仕事が出来ない。複数の人間は組織・役割を作り成長、発展する。
- 人は生理的な欲望から自己実現の欲求まで、多様な欲望・欲求を持つ。
- 人はモチベーションにより動機づけられるが、内的な動機が強く長持ちする。
- 人は成長段階に応じて仕事内容を成長させていく、これを「キャリア開発」という。
- 人は組織の中で「キャリア開発」するが、活性化した組織はこれがうまく廻っている。
これがうまく廻っている、ということは実は大変難しいマネジメントの成果と考えるべきである。誰でも、自分をより高く評価してほしいと思っているが、最終的には本当の実力があれば認められるだろうとは言ってみても、人の評価基準は主観的な産物で、実際に、完璧な公平というものがあるだろうか、実に難しい判断である。
さらに難しいのは、先ず個人一人一人が、仕事についてある目標を持っており、現在そのある過程にいるわけなので、企業人事が一人一人のキャリア・デザインに耳を傾けるとしても、全員についてその目標を会社の目標と一致させることは至難の業である。
実際にこのすり合わせをするために、いろんなルールを考え、短期的には満足されないとしても、ある程度の時間帯の中でバランスが取れるような運営をきめ細かくできれば、成功な事例と考えられるレベルに到達できるかもしれない。
またその前に「キャリア開発」そのものの学習を、人間の成育の各段階でしっかりと自分のものとして考えさせる必要がある。
私の中学時代の記憶で、将来どのような仕事をしたいかという問いに1回目は「小説家」と書いて、とても簡単にはできない仕事だと諭された覚えがある。その次に書かされた時は「外交官」と書いたのだが、これはまた別の動機があって今考えるとこれも浅はかな夢だった。
しかし、それぞれの人生の節々で自分の内面に向き合い、どのような人間になろうとしているかを考えるのは、大切な成長の糧になることに間違いない。これが「キャリア開発」への最初の取組みなのである。
いい会社に話を戻すと、「いい会社」とはこのような人生の各段階に居る個人に、自分の特長や生き方を考える機会を与え、その延長線の上にこの会社で働く動機があるのか、をしっかり考えてもらうことが、お互いにとても有益なことだろうと思われる。
このようなやり取りが人事部門と個人社員の間にあれば、長い時間の意味で「キャリア目標」との整合が付き、安心して職場に集中し没入した仕事が出来るだろうと思う。
そこで一人一人に自分のキャリア開発の考え方、どのような仕事がしたいのか、それはどのような動機に基づいているのか、現時点で、何か障害になることがあるか、将来どのような発展と成果を考えているのか、等を定期的に書いて人事に提出してもらう。
人事部門は、会社の「キャリア開発計画」の考え方、枠組みを準備しこれを全社に公開し、必要な教育計画を立てること、特に上司になる人への意識教育、スキル教育が必要になるだろう。
これが全体に普及して「キャリア開発」のすり合わせが自然な行動となり、「いい会社」と「いい仕事」が組み合っていくことが、活性化した職場になる重要なポイントであると思う。