増え続ける高齢者雇用 介護業界では定年制撤廃が続く

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就業する高齢者数が初めて就業者数全体の10%を上回った。
総務省の調査によると2013年に65歳以上の就業者数が636万人、就業者数全体の10.1%となった。現役高齢者が増えているのだ。

 神田明神の近くに「高齢社」という人材紹介会社がある。
高齢者の雇用がテーマになると、しばしばメディアに紹介される会社だ。この会社は60~75歳の人材を登録して企業に紹介しているが、登録数は10年前の9倍に増えて現在は約700人におよぶ。
登録者は、創業者で現会長の上田研二氏が東京ガス関連会社の社長だった経歴から、東京ガスグループ出身者が多い。
それも現業部門の出身者に声をかけて登録を勧めているから、ボイラー技士や危険物取扱者、高圧ガス製造保安責任者、管工事施工管理技士など有資格者が多い。
 
 派遣先での業務はガス設備の保安・メンテナンス、ガス工事・機器設置、ガス機器営業・顧客巡回フォロー、料金収納、マンション管理など。震災以降は新築マンションの購入者向け内覧会の説明役や、マンション完成後のガス機器点火試験などのオーダーが増えている。
有資格者の従事が法的に義務付けられている業務では重宝されているという。女性も70~80人が登録して、一般事務・営業事務などに派遣されている。

 派遣される登録者は週3日程度勤務して、月8~10万円の報酬を得るのが基本パターンだ。
派遣先にとっては、補助業務なのでフルタイムで出勤してもらう必要はなく、休日や祝日の業務でも企業は割増賃金を支払わずにすむから、人件費も抑制できる。
登録者は無理のない範囲で働いて、年金と併用した収入を得られる。ワークライフバランスも実現する。労使ともどもメリットのある仕組みで、多くの職種に広がればよい。

 高齢者が適任として求められている職種もある。たとえば介護である。
昨年9月、山梨県北杜市から日常生活総合支援事業を受託して、市内の高齢者を対象に通所型予防サービスを行なっている施設を訪問した。
その施設では70代のボランティア約5人を主体に運営されている。
代表者は大手介護事業所の出身60代後半の女性で、「70歳を過ぎると体力的に無理はできません。でも年齢を重ねると、人としてのやさしさが自然に出てくるのです」。そう教えてくれた。
施設に通う高齢者は80代後半が多い。長年の人生経験が投影されたコミュニケーションスキルに充足感を得られるのだ。

 いま介護業界では、60歳定年制を撤廃するケースが続いている。
茨城県にある社会福祉法人の理事長は「70代の子供が90代の親を介護している家庭がたくさんあるのに、介護施設の定年が60歳というのはおかしいでしょう」と力説した。
そのとおりである。この法人は数年前に定年制を廃止した。

 横浜市にある社会福祉法人伸こう福祉会は、さらに進んでいる。
横浜市を中心に川崎市、鎌倉市、藤沢市に特別養護老人ホームやグループホーム、小規模多機能型居宅介護など33施設を展開する有力事業者だ。900人近い職員の定年は70歳である。
もともとは60歳定年だったが、それが65歳に引き上げられ、70歳に定着した。定年後も継続雇用制度があり、80歳まで働ける。
すでに該当者がいる。
一昨年に初の80歳退職者が出て、現在の最高年齢者は今年80歳を迎え、1週間フルタイムで出勤している。
この職員は60代後半に入職して、70歳を過ぎてから介護福祉士を取得したという。
伸こう福祉会のアニュアルレポートを見ると、60代の職員がおよそ15%を占め、70代の職員も4%近く働いている。

 介護ロボットの導入などで体力的な負担が減れば、深刻な人手不足が続くなかで高齢者の需要が増えていくに違いない。
厚生労働省は、現在149万人の介護職が、団塊の世代が全員75歳以上となる2025年には250万人が必要と試算している。
むこう10年で100万人をどんな手段で増員するのか。手段のひとつとして高齢者を雇用しなければ、需給ギャップを解消できまい。

 高齢者にとって働く意義はそれぞれだろうが、最低限の生活収入がクリアできている場合、それは働くことの本義に根ざせることにあると思う。
つまり、他人のために何かをやるという役割を持ち続け、他人に喜ばれることを自分の喜びとする。働くことは人生の後半生を豊潤にする道筋である。