高く遠い夢を目指して

kiri

私は「団塊の世代(H22年~24年生れ)」の一人であるが、同じ世代の友人T氏のことをご紹介したい。
そろそろ現状安住を決め込もうとしている人にも、奮闘中の人にとっても、大きな刺激になろうかと思う。
T氏は大手の会社を幾つか経験した後に、船井電機のアメリカ法人に就任した。その後、印刷関連機材・コンピューター関連機材を取り扱う会社を設立し事業家として活躍している。T氏はいつも忙しく首都圏と関西エリアをシャトル便のように行き来しており、東京での我らの仲間との定例会合にも神出鬼没する。仲間が「相変わらず忙しいですか。会社経営は大変ですね。」と聞くと、「昨年12月にネット関連の会社をもう一つ設立した。販売チャネルがネットにシフトして来ているので、会社を作った。」と答えたものだ。即実行、いかにもエネルギッシュで凄い人とは思っていた。

そのT氏がこの2年間新たなチャレンジを開始した。
最初は富士登山である。T氏は登山の経験は無く、かつ登山にはやや不向きな体重過多気味の体格であった(失礼)。加えてフル回転のビジネスマンのT氏に時間的余裕は無い。なぜT氏が還暦を過ぎてから富士登山を思い立ったか分からないが、ある時、仲間の定例会合で富士登山を宣言した。友人の三浦豪太(三浦雄一郎の次男、元スキーのオリンピック日本代表選手、低酸素ラボを持ち低酸素環境適応や高齢制御医学で博士取得)から、「富士山レベルの低酸素には問題無く対応できる、但し体重は減らすこと」とアドバイスされたと言っていた。
さて、富士は見事登頂、後から体を10kg程度絞り込んでの登山だったと聞いた。その時、「Tさん、次のチャレンジは何ですか?」と聞いたら、「キリマンジャロ登頂」と笑いながら答えた。その場に居合わせた仲間の誰ひとり本気で受け止めはしなかったと思う。
その半年後、ハワイマラソンを完走した。同じ頃、イタリアの最高級自転車を買い込み、正月の寒い時期に東京から湘南をツーリング。その数か月後には琵琶湖周遊ツーリングに挑戦したことをfacebookで知らされた。
今年5月に三浦雄一郎が80歳でのエベレスト登頂に成功した。次男の三浦豪太も一緒に登頂に成功したが、その際にT氏も三浦隊の応援活動に加わった。

この2年間のT氏の行動の秘密は何だろうか?
そう考えながら、最近とみにT氏を尊敬するに至った。

三浦雄一郎のエベレスト登頂前後に書かれた「私はなぜ80歳でエベレストを目指すのか」「高く遠い夢ふたたび」を読んで、その秘密に触れた思いがした。
三浦雄一郎は勿論別格の超人である。が、彼も60歳を超えてから衰えた。美食飽食の結果、相当な肥満となり、心機能も悪化して体力・体調が落ち続けた。
65歳の時に一念発起して、「70歳でエベレストに登頂する」決意を固める。それからはその目的に向けてひたすら努力・邁進していった。
彼は、人生は目的さえあれば苦しいことも乗り越えられる。目的の無い人生は虚しく、目的に向かっている人生は楽しい、高く遠い夢を目指している時が幸せで、仮に目的が叶わないで終わったとしてもそれはそれで良いのだ、と言う。
T氏の中にも、高く遠い夢の火が点ったのではないか、私はそう想像している。
T氏がキリマンジャロの頂に立つ日が本当に来るかも知れない。