新日鉄住金社長交代後を占う
統合後1年半での社長交代。新社長は調和型新藤孝生氏
新日鉄住金の社長交代が4月1日に予定されている。新日鉄住金は2012年10月に新日鉄(日本1位)と住友金属工業(日本3位)の統合で誕生した。新日鉄の宗岡正二社長が会長兼CEOに住金の友野宏社長が社長兼COOと統合後の融和を図る体制で出発した。それから1年半での社長交代である。
新体制は、宗岡氏(67歳)はそのまま会長に留任し、社長が友野氏(68歳)から新日鉄出身の新藤孝生氏(64歳)に変わる。友野氏は副会長という新ポストに就く。今回CEO、COOの役職は廃止される。
新藤氏は一橋大学でラグビー部主将だった。入社後ハーバードへ留学しMBAを取得した。新日鉄は体育会系好きの会社であり、宗岡会長も東大柔道部主将で現在日本柔道連盟会長であるが、ラガーマンであったことが新社長選任に当っての一つのファクターであったことを、宗岡会長は隠していない。
また、新藤氏は企画・総務畑出身で、温厚な調和型の人物と評されている。営業畑に他の有力候補もいたが、調和型の新藤氏が選ばれたのは、旧住金の人たちを気遣った人事との見方もある。
トップ人事発表の記者会見で新藤氏は「会長・社長が築いた現路線を踏襲して行きたい」と発言した。もう少し新規な戦略性や方針が示せなかったものかとの声もあったと聞くが、新日鉄住金の業態と現下の経営環境からすれば、社長交代で新たな戦略が打ち出せるものではない。その辺が機械や電機とは違う。
世界と戦うための統合
日本の製鉄業は日本の高度成長とともに伸びて来た。鋼材を大量使用する造船・建設・自動車等の需要に応えて伸びた。
一方、アメリカの製鉄業は、産業の空洞化による鋼材需要の減退で生産が落ち込み、生産性が悪化、設備更新もなされないまま老朽化し、更なる生産性の悪化に陥った。一時期、日本からの米国向け鋼材輸出をダンピング訴訟で防ごうとしたが、アメリカ製鉄業の衰退を食い止めることは出来なかった。
その後、東アジア・東南アジアの経済発展に伴って、韓国・中国等に相次いで巨大製鉄所ができ、世界的供給過剰となった。汎用鋼材価格は下落し、韓国材が安値攻勢で日本に逆流しても来た。
1980年代半ばから新日鉄は壮大な実験的取組みを開始した。エレクトロにクス、半導体、情報通信等への事業参入にチャレンジしたが、結果はほとんど失敗に終わった。
それ以来、本業に徹すべく、老朽設備の閉鎖、コスト競争力のある設備の稼働率向上、高張力鋼や電磁鋼板等の高級材への注力などに取組んで来た。
欧州の製鉄業では生き残りをかけた再編・統合が進んだ。2002年にはフランス・スペイン・ルクセンブルクの製鉄会社が合併してアルセロール社(当時世界1位)が誕生した。そのアルセロールが2006年にはミッタル・スチールに買収される事態となり、新日鉄も買収されないか不安にさらされた。
新日鉄と住金の統合は、そうした世界の製鉄業の変動を背景にしている。新日鉄住金の新体制の今後を占ってみよう。
統合による合理化
統合による合理化効果は更に出るだろう。
国内寡占体制となったことは鋼材価格の安定化に資するだろう。と言っても、需給がどうなるかが最大の焦点。2004~2005年は中国の高度成長で鋼材需要がピークに達し、鋼材価格が急騰(鋼板が5万円から9万円に)。新日鉄も住金も過去最高益を出した。そうしたことは二度と期待できないと思われる。それでも2014年3月期は国内景気の回復により鋼材の生産量が持ち直した。合理化効果と相まって相当な利益(連結経常利益3400億円)が出る見通しである。
今後伸びるのは新興国市場であるが、市場内に供給ソースを構築できるかが課題である(輸送は割高)。海外展開している日本の自動車メーカーがその国で鋼材を調達する例が少なくない。軽くて強靭な新日鉄の自動車用鋼板は世界一の品質だが、価格も高い。今のところ新興国では高級材の需要は小さいが、高級材市場は間違いなく伸びて行く。新日鉄の鋼材と住金のパイプは技術的にはいずれも世界一である。その強みをどう発揮して行くかが将来に向けての鍵と思える。