エージレス社会の理念と現実
エージレス社会とは、高齢者が年齢による差別的扱いを受けず、自らの能力と責任で活き活きと生きることのできる社会のことをいう。
この観点から、雇用面での年齢差別禁止を最初に法制化したのはアメリカで、1967年に40~65歳の年齢層についての差別を禁止した。その後、1978年に70歳までに改正、1986年に至って上限年齢を撤廃した。
男女差別、人種差別、宗教による差別などの撤廃を進めて来たアメリカは、年齢を理由とした扱いの違いも差別として、早くから法制化をして来た。アメリカでは、企業が社員を雇い止めする場合など、年齢を理由にできず、職務遂行能力の低下や欠如を理由としなければならない。新規に雇用する場合も年齢を聞くことは出来ない。因みに、性別を聞くことも出来ない。男か女かは職務遂行能力と関係が無いためである。
もちろん、採用後には社員管理のために年齢も性別も申告させることができる。
もともと個人の能力を重視し、能力に応じて報酬を決め、期待されるパーフォーマンスを発揮しない場合は比較的簡単に解雇できるアメリカでは、年齢差別禁止が受け容れやすかった。
ヨーロッパでは、年齢一律の定年制や年功・勤続にリンクした報酬体系などが、以前は当然視されていた。しかし、1997年のEU諸国間のアムステルダム条約により、年齢を含むあらゆる差別を無くしていくことが採択され、以降各国毎に差別禁止の法制化が進んでいる。
例えば、イギリスでは2006年までに一律定年年齢が廃止(ただし、70歳以上は可)された。とは言え、合理的理由がある場合は適用除外になるため、若者の新規雇用を促進するという理由で現行定年を維持するなどの動きも一部にあって、法の趣旨通りにはなっていない。
ヨーロッパの現状は、ドイツとスウェーデンを除くほぼ全ての国が何らかの法制化をしており、緩やかにではあるが、徐々に年齢を理由とした差別が廃止されて行くものと思われる。
我国は、定年制は60歳以上、雇用は個々の労働者に問題がない限り65歳までというのが現行法の要求である。そこで、定年は60歳のまま、65歳まで嘱託等の形で雇用継続する企業が圧倒的であり、60歳超の給与は60歳までの水準より4割程度引き下げている例が多い。年齢に応じ給与を下げる等の措置には一定の合理性があり、合法とされているからである。
年齢に基づく雇用慣行を幅広く容認して来た我国では、2007年の改正雇用対策法によって、募集・採用時の年齢差別が禁止されたが、それ以外の年齢を理由とした差別的取扱いを禁止する考え方は持ち込まれていない。
アメリカでは年齢を理由に差別されることはないが、保護もされない。
ヨーロッパはエージレス社会の理念は採用したが、実態はあまり伴っていない。むしろ今後、高齢化が進展するにつれて否応なくアクティブ・エージレス(生涯現役を推奨する考え方)に向かうのではないか。
我国では、年齢一律で線を引くことは差別ではなく、むしろ平等ととらえる向きがある。欧米のエージレス社会の理念とは異なるのだが、「年齢に関係なく、いつまでも活き活きと活躍するアクティブ・エージレス社会」に向かわざるを得ない点では同じだろう。
エージレス社会は、歓迎すべき面ばかりでなく、厳しい面を併せ持つようである。