平成26年版労働経済白書の要点と問題点
9月24日に平成26年版労働経済白書が発刊された。序に、人材こそが日本の誇る資源であり人材力の最大発揮に向けて本白書をとりまとめたとの宣言文がある。3つの章から成る本白書の要点を紹介し、問題点を述べたい。
第一章「労働経済の推移と特徴」
第一章では経済と雇用の回復状況を述べている。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災の影響で我国経済は長らく停滞を続けて来た。2013年は企業各社の合理化策の浸透に加え、円安効果の上積みがあって、久々に企業の好業績ラッシュが見られた。それを受け6年振りにベア(2パーセント超)が復活し賃上げが行き渡った。株価も上昇し消費者マインドが改善した。白書のトーンはようやく長いトンネルから脱出できるとの期待感に彩られている。
賃上げ集計結果出典:H26労働経済白書「第1-(5)-2図 賃上集計結果」
ただ、白書の記述対象期間は3月末までであり、4月の消費税アップについては言及されていない。そこが問題だ。現実には消費税アップに連動して消費者物価も3%アップした。それだけで賃金上昇分は完全に食われてしまったが、実際の消費者物価は円安の一層の進行で、その後も輸入物価を中心に上昇中である。
連合は10月17日に中央執行委員会を開き、実質賃金が前年同月比3%下がっているとして、ベア2%以上を要求する2015年春季賃金交渉の基本構想を打ち出した。消費税が来年10月さらに2%アップするなら、その程度のベアなくしては消費の冷え込みは避けられないだろう。
第二章「企業における人材マネジメントの課題と動向」
第二章では企業の人材マネジメントと労働生産性の関係について分析をしている。経済の好循環を実現するには、労働生産性を向上させ、賃金を持続的に上昇させて行くことが必要である。労働生産性の向上は労働装備率の上昇と労働の質の向上の2つから成るが、白書は労働の質の向上が企業内での教育やキャリア形成によるところ大との分析結果を示している。
それはそうだろう。しかし、ここでの問題点は、過去の労働生産性の向上は労働装備率の向上に大きく依存しており、その中心が製造業の大規模設備の導入、ラインの自動化やロボット化であった点だ。
白書は海外からの製品輸入の急増で2000年~2010年の間に製造業の労働者が実に232万人も減少したと述べている。製造業の後退で労働装備関連投資はIT投資にシフトしたが、必ずしも国際競争力を産む源泉になっていない。このため労働の質の向上という古典的なコンセプトを再登場させた気がする。人材こそが日本の誇る資源という言い方に、逆に苦しい今の日本の実情が示されているように感じられる。
第三章「職業生涯を通じたキャリア形成」
第三章では労働者の職業キャリアと人材力発揮の関係の分析を試みたものである。白書は、職業キャリアを通じた人的資本の蓄積が労働生産性を高め、経済社会の基盤を強固にするとしている。
男子労働者が初職から転職せずに就業し続ける割合は、30~50歳を通じて約半数(30~50歳の転職は極めて少ない)であるのに対し、女子は同じ30~50歳を通じて約1/4と低い。白書は、その分キャリア形成の面で損失が生じているので、女子が就業を継続・中断・再開できる環境整備が必要と論じている。ワークライフバランスの諸施策はその考え方に沿うものである。しかし、女性の活用という安倍政権の目玉に関して、それ以上は論じられていない。
高齢者の活用は前進している。60~64歳層は2006年の高齢者雇用法的義務化後の2007~2008年に労働力率が上昇し、男子は75%超、女子は45%超で推移。65~69歳層は団塊の世代(1947~1949年生)が65歳以上となった2012年に急上昇し、男子は50%超、女子は略30%となった。
転職は30歳以下と50歳以上に多く低所得層中心であるが、年齢層に関係なく年収1000~1500万円以上の高額所得者の転職が増えて来ているのが最近の特徴のようだ。そうした高額所得者は職業キャリアの形成を通じて、より高い人材力を発揮する可能性を持っていよう。白書も、経済社会全体の活性化と人材力の最大発揮に向けて、外部労働市場の整備が必要と述べているが、踏み込んだ主張は控えている。
有能な人材が自らキャリア形成を図りながら能力を発揮して行く時代が到来している。そんな風にも感じられるのだが…
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「平成26年版 労働経済の分析 -人材力の最大発揮に向けて-」