シニア市場開拓の先駆
日本の高齢化は世界に例を見ない速度で進展している。
生産人口比率の減少、活力減退に伴う経済の停滞、高齢者医療・福祉負担の増大等々の懸念が尽きない。
一方、その日本は高齢社会に関する研究材料に事欠かない調査と実験研究の場でもある。
シニア市場をどう制して行くか。世界規模での高齢化が進展する現在、フロントランナー日本はその面では優位な立場にいる。
それを活かせるかどうかが日本の将来にかかわってもいる。
今年2月14日付日経新聞に掲載されたGEの取組み事例に、まず注目したい。
GEは弘前大学と提携し、アルツハイマー型認知症の予兆発見、予防、治療への取組みを開始する。
弘前大学は青森県民約9000人の健康データ(個人毎300項目にわたる詳細データを集積して来た)を保有しており、これに認知症関連データ、個人毎の遺伝子情報を付加したビッグデータを作って解析し、予防・治療用ソフトを開発し、事業化する狙いだ。
アルツハイマー型認知症の患者は世界で約3600万人おり、世界の市場を視野に入れた取組みである。
GEは日本を高齢化の課題先進国と見て先進医療システムの開発拠点に位置付けている。
日本からはサンスターが認知症予防の栄養補助食品開発の面で参加する。
本プロジェクトには政府が10億円を補助しており、日本勢がGEに先を越された格好となった。
日本での取組みとしては、セコムにいろいろな事例がある。
見守りセンサーを使った高齢者安否確認システムがその一つ。独居老人の安否を遠隔地から確認するものとして開発された。
医療設備を装備し医療スタッフを乗せた特殊車での搬送サービスも開発した。
病院の患者が「一時的にせよ家に帰りたい」と言う際に使えるサービスである。
一時アメリカの救急医療会社を買収し、民営の救急医療事業にも乗り出そうとしたが、官民棲み分けの壁があり、その分野は撤退済である。
救急に当たらない医療搬送は、病院側にはその種サービスがないので、隙間を埋める形で取り組んだものである。
在宅医療サービスを幅広く展開しているが、それをサポートするためにクラウド型のユビキタス電子カルテシステムを開発し商品化した。
クリニックや小規模病院の医師、看護師、薬剤師等が患者の診療データを共有できるようにした。
高齢者の増加に伴い地域医療情報システムのニーズが高まって行くと、この種共有データの利用度、重要性は増して行く筈である。
三菱重工にも面白い事例がある。三菱重工が開発したロボット「ワカマル」は子供の大きさの人間型ロボットである。
このロボットの開発コンセプトは、老人の話し相手となり、介護の世話をするというものである。
言語認識ソフトを使って、独居老人の話し相手になる。
また通信機能を具備していて、ニュース配信会社、ケータリング会社、清掃サービス会社、医療機関等と交信する。
「ジャイアンツは勝ったかね?」と聞かれれば、「ハイ。3タイ1デ、カチマシタ。」と答える。
「今晩は天ぷらが食べたいね。」と言われれば、ケータリング会社に注文する。
ロボットを情報交信システムのキーステーションにするというのが開発思想である。
東京大学は2009年にジェロントロジー・コンソーシアムを設立した。
高齢化に関する各種専門家を集めて学際的チームを編成、高齢社会やシニア市場等の調査研究を共同で進める企業を募って産学共同の体制を整えた。
民間企業50社以上が参画している。
高齢社会調査研究における日本で最も組織的な取組みの一つであり、学際チームのレポートには幾つも優れたものがあるが、名を連ねている企業の存在感が今一つ感じられない。
もし「乗り遅れないための保険」と考えているとすれば、GEの戦略性を見倣ってもらいたいと思う。
フロントランナー日本が本気で取組んでいるかが、ますます問われている。