時代とともに再就職の取組みは変化している

hiramatsu015

日本企業の伝統では人事関係業務の殆どを人事部門が担うのが一般的であった。これに対し、アメリカ企業では内部に専門スタッフを抱える代わりに、アウトソーシングできる機能は外部のプロを活用する傾向が強かった。
昔アメリカでコーン・フェリー・インターナショナル(ここでは現在の社名を使用)というヘッドハンティング会社を訪問し、オフィスや陣容の立派さに驚いたことがあった。日本では採用は企業の人事部門が募集・面接を行い、外部のプロに依存することは余り無かったが、アメリカ法人にアメリカ人を採用する場合は、日本企業のプレゼンスが低いので募集してどれだけ応募があるか、また英語での面接で適格者を見分けることが難しいので、アメリカに進出した日本企業の多くがそうしたプロに依存していたように思う。
その後アメリカ法人が拠点を広げた際、ニューヨークとテキサスでは物価水準が倍半分も違うので、給与水準設定にヘイ・コンサルティング(現在の社名を使用)を起用してアメリカ法人全域の給与改定を行った。
そうしたことは当時のアメリカ企業が普通に行っていたことでもあった。

現在は、日本企業も内部のスタッフを必用最小限に絞り込み、外部のプロを盛んに活用するように変わって来た。こうした変化が、高齢者の再就職に関しても、変化と影響を及ぼして来たと思う。その問題認識と課題について述べてみたい。

一般に大手企業は、昔から社員が高齢になると社外に再就職させて来た。定年まで雇用義務を負っているので、外部の会社に出す場合は出向(休職派遣とも言う)の形が用いられた。会社間の話し合いで出向先での本人の職位・給与が決められるが、殆どの場合出向元会社でのそれまでの処遇より下がるので、差額を派遣元会社が補填支給するのが一般的であり、本人に経済的不利益は無い。そうで無いと会社がスムーズに社員を出向させることはできない。社員はそれまでの給与水準が保証されるので会社間の話し合いに任せている。会社間で出向契約が締結される。この段階で、自分の意思で再就職先を探し決めた事例は極めて少ない。本人は出向先で働き振りを認められれば、出向元会社の定年に到達し出向元会社を退職した後も、出向先と本人が話し合い合意すれば直接の雇用契約に切り替わることができた。即ち、会社が出向を斡旋した会社に再就職する結果となるのである。
出向先がグループ会社の場合はグループ内に再就職、取引先会社の場合はその取引先会社に再就職することになる。
取引先会社への出向では、設計・工作関係者は、技術指導要員として受け入れられ、発注会社たる出向元会社との調整役も兼ねるケースが多かった。そういう役割の者は一定の期間毎に(再就職後暫く経って)次の出向者と交替する。中には技術力抜群で取引先会社で新製品・新技術を開拓する者や生産効率の飛躍的向上を実現する者もいて、取引先会社で重要ポストを占めるに至る者もある。
営業要員等の場合は元の会社からの仕事獲得に役立って貰う狙いが多いが、この場合も業界人脈を駆使して、取引先会社の事業拡大に貢献する者もいる。
取引先会社以外でも、企業の苦しい時期には人員削減目的の出向というものがあった。苦しい時は取引先会社も仕事が減って受入余地が無いので、人事が八方手を尽くして景気の良さそうな別業界等に出向先探しをした。いわばあらゆる伝手を頼って社員を売り歩く、飛び込み営業的なこともした。
これらのケースで会社間で出向を合意しても、社員にとっては元の会社の後ろ盾が無いので不安を抱きながら赴むく。しかし、そうした流れの結果、その会社が将来の再就職先になる可能性は高い。

出向先を探しあぐねていた時期に、日本電産の代理人のエージェントが人材を求めて来社したことがあった。M重工の技術者を使ってみたら、真面目でよく働くのでもっと人が欲しいとの要望であった。当時、急成長中の日本電産は工場管理・品質管理・システム構築等あらゆる分野で人材が不足していた。結局、何人かはその会社に再就職していった。
また、或る時、エゴンゼンダー(ヘッドハンティングの会社)が世界最大級のボールベアリングを製造するドイツの会社の技術要員を求めて接触して来たことがあった。
アメリカでその昔見たビジネスが日本でも浸透し始めていた証左であった。企業の盛衰が加速してリストラが増え、一方で有能な人材の獲得の動きが活発化した。

考えてみれば、人員削減目的の出向・再就職斡旋などは、企業内の人事が本来的にやれる仕事ではない。人事は内部情報に詳しいが、外部情報に弱く、広く適職を探す知識やノウハウに欠けているのである。そうした分野はプロの活躍エリアである。そう考えて、その後ある事案に外部のプロを活用したら、期待した成果が得られた。

さて、高齢者本人へのアドバイスであるが、会社の出向・再就職斡旋に乗っても良いが、自分が納得するものか吟味すること。人事のそうした機能は今の競争社会では弱まっているし、会社の再就職斡旋はせいぜい65歳までである。その先まで会社が心配してくれることは無い。その先は自分で見つけ出す必要がある。その際に役立つのはプロである。